9.俺たちに青はない

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この世界中で、僕ら二人しか知らない記憶。 僕しか知らない、日向陽一。 君しか知らない、月影望。 僕らだけが知っている三日間。 青い、青い、三日間。 君がこれを青春と呼ぶなら、僕もそうしよう。 なんて、詩的な言い回しで高鳴る胸を誤魔化して。 「……最初から、素直に『お前と青春したい』って言えや」 無理やり捻り出した小言と共に、僕は差し出された手のひらを思いっきり叩いた。 ぱちんという乾いた音が、波の間に響いて消える。手のひらがジンと熱い。 陽一はその手をぎゅっと握りしめて笑う。 「それ聞いて素直に着いて来てくれる奴じゃないだろ、望は」 自分のことを、時に自分よりも理解してくれる誰か。 自分以外に世界でたった一人、同じ記憶を共有する誰か。 雲を裂くような晴れた笑顔を見ながら、僕は二匹のウミガメを思い出していた。 陽一にとってのお守りがこの三日間の思い出なら、僕にとってのお守りはきっと、君という存在そのものだろう。 この先苦しくても辛くても怖くても、僕には陽一がいるって思うだけできっと、大丈夫。 「陽一」 「ん?」 「ちょっと連れていきたいとこがあるんやけど」 「何それ。つーかお前今までどこに居た? 俺そこら中走り回って探してたんだけど」 胸がギュッとなるのを飲み込んで、僕はその嬉しい言葉を笑い飛ばした。 そして、陽一を目の前にした大森さんと佐々木先生の反応を想像して、もっと笑ってしまった。 複雑な表情の陽一を横目に僕は、人間には形容できない感情を、確かに自覚したのだった。
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