9.俺たちに青はない

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言うが早いか、陽一は「そうだ!」と声を上げた。 機内に響く大声にギョッとして、僕まで肩をすくめてしまう。 「なぁ、いつかさ、俺たちのこの三日間を漫画にしてよ」 声をひそめ肩を寄せてきた陽一は、僕のあからさまにイヤそうな顔を見ても動じない。 「派手なことなんもないし、そもそも青ヶ島行けなかったのに?」 「それでもいいんだって! 望視点のこの旅が読みたいからさ」 僕視点の三日間。 少し考えただけでもページ全体が陰鬱で、ろくに喋らないし動かないし全然面白くなさそうだ。 でも少しだけ、陽一に読んでもらいたい気持ちはある。 僕の気持ちを、感情を、思考を知って、どんな顔をするのか見てみたい気もする。 「タイトルも考えたんだ俺! 聞いて聞いて」 「えぇ、ノリノリやん。僕視点の物語なら僕がタイトルつけたほうが」 「いいからいいから! あのね、《俺たちに青春はない!》ってどうよ!」 最後ビックリマーク一個な! なんてどうでもいい情報を添えて、陽一は顎を持ち上げた。 その得意げな顔を両手でぐちゃぐちゃにしてやりたい衝動にかられながら、僕は心を込めて一言伝える。 「くそダサい」 「えぇ〜反応わっる!」 「だってダサいもんマジで。特に最後のビックリマーク、絶っ対要らん」 全ての単語に心を込めて全力で否定してやっと、陽一は失速したようだった。 そうかなぁ、と口の中でもぐもぐ言うその横顔に、追い討ちをかけておく。 「青春、って言葉まんま使ってんのもダサいわ。せめて《俺たちに青はない》ぐらい意味深にしとき」 陽一をやりこめたことで少し調子に乗ってしまったんだと思う。 僕がつけたした無駄なコメントは、彼の心の琴線を再び震わせてしまうこととなった。 「え、それめっちゃいいじゃん。俺たちに青はない……しっくりくる! さすが先生!」 「先生言うな馬鹿」
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