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東京駅の改札口で、僕らは直前まで本当にくだらない話をしていた。
このあと別れるなんて想像もできないような、中身のない、どうでもいい話だった。
でも僕は、その時の会話を全部覚えてる。
ただでさえ喋る陽一がやけに饒舌で、きっと僕と同じ気持ちなんだなって嬉しかったから、ちゃんと覚えてる。
「なんでも《東京》ってつければ東京土産になるって考えは浅いと思うんだよね。だってバナナ関係ないじゃん東京。なんでバナナなの?
東京にいっぱいあるものにした方がよりわかりやすくない?
バナナなんて生えてないじゃん、最近スーパーでもやけに高いし」
「じゃあ東京にいっぱいあるもんて何よ」
「え、ビルでしょ、ビル。東京といえばビルじゃん。腐るほどあるじゃん。よくない? ビル型のまんじゅう。四角くてさ、窓の部分が凹んでてさ、なんかワッフルみたいで可愛くなるじゃん!」
「お土産の《東京ビルまんじゅう》ですぅ、て?
どんな顔して受け取ればえぇねん」
「お土産の《東京バナナ》ですぅ、も微妙だろうが!」
「お前それ、今まさに買ってるあのおっちゃんに言うて来いや」
「俺がプロデュースすれば売れるかな……《東京ビルまんじゅう》」
「日向陽一のサインが焼印で入ってますぅ。これなら馬鹿売れ間違いなしやで」
「でもそうすると、形がビルである意味がよくわかんなくなってくるよな。俺の顔の形とかにした方がいい?」
「なぁ、ほんっまにどうでもえぇなこの話題」
改札前の人だかりを少し避けて、僕は立ち止まった。
それを合図に、陽一はぴたりと黙り込んだ。
新幹線の発車時刻はもう間も無くだ。あまり時間はない。
僕らは見つめ合い、同時に顔を背けて、互いに言葉を探し合った。
別にこれが今生の別れってわけじゃない。きっとまた会える。
けど、いつになるかわからない。
次に会ったら僕ら、大人になっているかもしれない。
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