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「エマ、キミは…」 「ロイ。もう、時間はあまりないはずよ。あなたの意識はもう少しでゴルド病に飲まれてしまうはず。」 「気づいていたのか」 「あなたと、抱き合ったときに、あなたの肩に違和感があったの」 彼女の言う通り、ロイはゴルド病に再びかかっていた。 ロイの地域では、変異したゴルド病が再流行していたのだ。 再び、治療薬が開発が開発されたものの、 やはり原料には希少な動植物が使われたため、教会による支給制が取られた。 ロイは、既に支給薬を貰っていた。しかし、その服用を拒んでいたのだ。 それは、ゴルド病のある症状を利用するためだ。 ゴルド病は、進行すると、睡眠時間が伸びる。 その理由は、願いを叶えるとも言われる夢にあった。 その夢を見続けたいがために、睡眠時間が伸びるというのだ。 それは例えば…亡き恋人と再会する夢。 ロイは、この夢を利用して、エマに会うことを決めたのだ。 それは、二つ目の治療薬の謎を解き明かすため、そして…最後の時間をエマと共に過ごすためだった。 しかし、もうロイには迷いはなかった。自分のやるべきことに気づいたのだ。 その時、エマがロイの手を両手で包み込んだ。 「ロイ、あなたは選ばないといけない。 このままここで、私と共に命を落とすか、それとも目覚めるか。」 ロイは、まっすぐにエマを見つめ、言い切った。 「目覚めるよ」 一瞬、エマの瞳に悲しみの色が浮かんだ気がしたが、すぐに元に戻る。 「またいつか…」 「ああ、必ず」 そして、ロイが意識を集中する直前、ここが教会であることを思い出す。 「エマ、その最後にしたいことがあるんだ」 ロイが頬を赤らめながら、エマに耳打ちする。 エマは一瞬、呆気にとられながらも、くすくすと笑った。 「そういえば…やり残してたね」 そして、ロイはあるものを取りに駆け出したのだった。 ―― …数年後。 ロイは、教会に訪れていた。 今日は、ある功績に対する勲章を貰う日だった。 ゴルド病の夢から目覚めたロイは治療薬を飲んだ。 そしてその後、研究していたある植物が、ゴルド病に有効であることを突き止める。 この事実は、治療薬の量産化につながった。 つまり、支給制がなくなり、より多くの人々の命が救われたのだ。 その功績が教会に高く評価されたのだった。 ロイは思う。 この功績は、きっとエマと再会することがなければなしえなかっただろうと。 だが、時々不安になるのだ。 あの日の出来事は、ただの夢で、あそこで起こった出来事は、自分に都合のよい妄想に過ぎないのではないかと。 その時、ふとロイは首に下げたロケットに視線を傾けた。 生前のエマの写真が収められた、あのロケットだ。 ロイはその時、操られたかのように、ロケットの留め具を外した。 そして、中に収められた写真を見て、ひとり涙した。 そこには、エマと夢で別れる直前にした、ある儀式の写真が収められたのだ。 これは…現実なのか。それとも、幻だろうか。 ロイの視線の先。 そこには、純白のドレスに身を包み、こちらに微笑むエマが写っていたのだった。
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