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4
「エマ、キミは…」
「ロイ。もう、時間はあまりないはずよ。あなたの意識はもう少しでゴルド病に飲まれてしまうはず。」
「気づいていたのか」
「あなたと、抱き合ったときに、あなたの肩に違和感があったの」
彼女の言う通り、ロイはゴルド病に再びかかっていた。
ロイの地域では、変異したゴルド病が再流行していたのだ。
再び、治療薬が開発が開発されたものの、
やはり原料には希少な動植物が使われたため、教会による支給制が取られた。
ロイは、既に支給薬を貰っていた。しかし、その服用を拒んでいたのだ。
それは、ゴルド病のある症状を利用するためだ。
ゴルド病は、進行すると、睡眠時間が伸びる。
その理由は、願いを叶えるとも言われる夢にあった。
その夢を見続けたいがために、睡眠時間が伸びるというのだ。
それは例えば…亡き恋人と再会する夢。
ロイは、この夢を利用して、エマに会うことを決めたのだ。
それは、二つ目の治療薬の謎を解き明かすため、そして…最後の時間をエマと共に過ごすためだった。
しかし、もうロイには迷いはなかった。自分のやるべきことに気づいたのだ。
その時、エマがロイの手を両手で包み込んだ。
「ロイ、あなたは選ばないといけない。
このままここで、私と共に命を落とすか、それとも目覚めるか。」
ロイは、まっすぐにエマを見つめ、言い切った。
「目覚めるよ」
一瞬、エマの瞳に悲しみの色が浮かんだ気がしたが、すぐに元に戻る。
「またいつか…」
「ああ、必ず」
そして、ロイが意識を集中する直前、ここが教会であることを思い出す。
「エマ、その最後にしたいことがあるんだ」
ロイが頬を赤らめながら、エマに耳打ちする。
エマは一瞬、呆気にとられながらも、くすくすと笑った。
「そういえば…やり残してたね」
そして、ロイはあるものを取りに駆け出したのだった。
――
…数年後。
ロイは、教会に訪れていた。
今日は、ある功績に対する勲章を貰う日だった。
ゴルド病の夢から目覚めたロイは治療薬を飲んだ。
そしてその後、研究していたある植物が、ゴルド病に有効であることを突き止める。
この事実は、治療薬の量産化につながった。
つまり、支給制がなくなり、より多くの人々の命が救われたのだ。
その功績が教会に高く評価されたのだった。
ロイは思う。
この功績は、きっとエマと再会することがなければなしえなかっただろうと。
だが、時々不安になるのだ。
あの日の出来事は、ただの夢で、あそこで起こった出来事は、自分に都合のよい妄想に過ぎないのではないかと。
その時、ふとロイは首に下げたロケットに視線を傾けた。
生前のエマの写真が収められた、あのロケットだ。
ロイはその時、操られたかのように、ロケットの留め具を外した。
そして、中に収められた写真を見て、ひとり涙した。
そこには、エマと夢で別れる直前にした、ある儀式の写真が収められたのだ。
これは…現実なのか。それとも、幻だろうか。
ロイの視線の先。
そこには、純白のドレスに身を包み、こちらに微笑むエマが写っていたのだった。
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