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戦場へは、トヨタのエスティマで向った。
私たち夫婦は、エスティマファンだ。
トヨタが製造中止とした時は、残念だった。
私たちは、この車が壊れるまで使い続けようと思っている。
私の家族は横断幕を作ってくれた。
手作りの愛情が心にしみる。
私たちはバンドメンバーのご家族にも会った。
男性陣は、名刺交換し、子どもたちは呆気なく友人関係となる。
私たちは、衣装に着替え、メイクをしていく。
鏡の前の自分は、もう更年期でグダグダなだけの自分ではない。
まっすぐ前を向き歩いていける。
私たちは、5番目だ。
20組のバンドは若い世代ばかりだ。
おばさんは私たちだけだ。
一組終わり、また一組終わり、私たちの緊張は頂点に達した。しかし頂点を過ぎたあとは、静かな海みたいに時間がゆっくりと過ぎていく。
「バンパイアさん、お次です。舞台袖にお願いいたします。」
係の人に誘導され私たちは舞台袖に移動した。
やはり若いエネルギーは、すごい。
パフォーマンスがキレキレだ。
ヨシキさんも昔はもっと早くドラム叩いてたよな。
トシさんもハイトーンボイス今よりハイトーンだった。今は活動してないエックスだけど、また活動してほしい。
私の生活を支えてくれた数々の楽曲。
復活してほしい。
「それでは、どうぞ。」
私たちは、円陣を組み舞台に飛び出た。
舞台のスポットライトは眩しかった。
私は静かに、息を吐く。
「みんな行くぜー。バンパイアー。」
私は大声で叫んでいた。
心の底から光に向かって。
花火がたくさん空を賑わすイメージで私たちは音を重ねた。
舞台袖に移動した私たちは、興奮で何を喋っているかわからなかった。
みんな涙を流し、みんなガッツポーズをしたり肩を抱き合いながら楽屋に戻った。
メイクを落とし、普段着に変えた私たちは落ち着きを取り戻した。放心状態で、しばらくみんな無言だった。
楽屋にあるお菓子を食べながら、モニターで他のグループのパフォーマンスを見る。
どのチームも最高だ。
私は、だんだん自信を無くしてきた。
私かなり恥ずかしいことして予選落ちなんて悲しい。涙が出そうだ。
20組それぞれが、パフォーマンスを終了したあと、20分の休憩に入った。
審査が行われている。
私たちは、もう宴会をしていた。上越さんのクッキーに、高階さんのスナック菓子、川上さんのアイスクリームに、内藤のビール。私は、ソフトドリンク。みんなあれこれ愚痴を言いながらから、食べていく。
「それでは、結果発表です。」
モニターに映し出された司会者が、3位から読み上げていく。
「3位。夜に舞うさま。」
若い女の子二人組が、舞台に行きインタビューを受ける。
「2位。ハイリスク。」
4人組の男の子は、ビートルズみたいだった。
どうしたらあんなに掘りの深い顔の子どもが生まれるのかしら。
私はへんに感心してしまうほどの美男子達が、涙を流しながらインタビューを受ける。
「1位は、ヒーローズ。」
男女4人組のフランス人形みたいなバンドだった。
宝塚のスターみたいに華麗な動きだった。
私たちは、入賞できなかった。
悔しかった。私は自然と流れる涙を止めることができなかった。
「最後に。本当は、3組を選ぶところですが、審査員特別賞を発表します。バンパイア。どうぞステージへ。」
私は、口に入れた煎餅を落としそうになった。
今私たちは呼ばれた。
「私たちは、ステージへと向った。」
私たちは、お客様の拍手をたくさんいだだいた。
嬉しくて、涙が止まらなかった。
私の初舞台は成功したようだ。
一週間後、私たちはまたスタジオにいる。
今日は練習ではない。
内藤さんが話があるから来てほしいとみんなに連絡をしてきたのだ。
みんな席に座り内藤さんの言葉を待つ。
内藤さんは静かに話しだした。
「実は、私引っ越すことになりました。
こから、1時間かかるところ。
だから、このバンド脱退を考えています。」
「何で、脱退を選ぶの。」
「私1時間かけて毎回通えなくなるしみんなの迷惑になるから。」
「内藤さんが通うことなんてないわよ。」
「私達が行けば良いし、練習なんてどこでもできるわよ。」
「パソコンだってあるし。」
「え。」
「あとは、内藤さんのやる気の問題よ。」
「私は、次をみています。」
「私も。そこには、内藤さんが必要だよ。」
「はい。みんな一緒にむかいませんか。」
「もう、衣装合わせ予約してあるしね。」
内藤さんは泣き出した。
子どもみたいに泣き出して、みんなもらい泣きをした。
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