更年期バンド、バンパイア

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私は気晴らしに、髪の色を変えた。 いつもは薬局で白髪染めを買ってそれをつけて終わるが今日は美容室に来た。 ブリーチは、怖いから明るいトーンのブラウンを入れた。 明るくなった髪を見ると心も明るくなる。 私は、このあとスタジオに行く。 久々のスタジオに緊張する。 声でるかしら。 「おはよう。」 「おはよう。」 みんなの顔を見たら気合いが入ってきた。 「山田さん髪の色素敵。」 「あら、本当に。」 「私もピンクにしたのよ。」 川上さんの鮮やかなピンク色の髪はとてもきれいだ。 「みんな、何だかきれいになってきてない。」 上越さんは、ドラムを叩いた。 「おばさんだからって、地味な格好でいるなんて嫌だ。好きな格好をして歩きたいじゃない。」 私たちはそれぞれの楽器でシャウトした。 おばさんだからって、何だというのだ。 やることやってるんだから、せめて見た目くらい自由で良いではないか。 私たちは2時間、必至に練習した。 「みんな良くなってきたね。 あと、5曲完成させていきたい。」 私たちは、次の課題曲を聴いた。 なんと、ペニシリンではないか。 あの有名なロマンスだ。 ボーカル難しそう。 あと4曲はそれぞれが選ぶことになった。 上越さんは、聖飢魔IIの蝋人形館 川上さんは、レベッカのフレンズ 高階さんは、hideさんのDice 私は、エックスのエックス みんな難しい曲だ。 とりあえず明日から自主練習をしてくることになった。 「ペニシリンって、薬の名前じゃない。」 「あらあんたよく知っているわね。」 家に帰ると娘が言った。 私は改めて曲を聴いたが難しい。 女性のしかもハスキーではない私の声であの世界を表現するにはどうしようかしら。 ゆっくりなテンポで、女性らしい歌い方をしてみた。この感じ良いかも。 私はこの感じで仕上げて行こうと思った。 次の練習まで一週間。 私は仕上げることができるかしら。 次の練習は散々だった。 みんなバラバラで、全くまとまりのない音がスタジオに響く。 「なんかだめだね。」 「何かダメって具体的に何がいけないの。」 「気が付かないの。不協和音だよ。」 「何で。ロックなんだから尖ってもいいんじゃない。」 「尖ると、バラバラは違うよ。」 私たちは、険悪なムードになり練習を終えた。 こんなことははじめてだ。 いったいどうなるのだろう。 私たちはしばらく練習で集まることはないのかもしれない。 二週間後。 何事もなかったように練習をした。 今日のみんなはすごかった。 すべての音がきれいに回っている。 なんだろう。 もう仕上がっているではないか。 「みんな今日すごいね。もう完成だよ。」 「お互いの音が絡みあっていて素敵。」 「本当に。」 みんなそれぞれに、努力をしたのだろう。 私も喉が痛むくらいみんなの音を想像しながら練習した。 喧嘩も時には良いのだ。 みんながまとまり、みんなが、成長する。 私はひとつ学んだ気がした。
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