更年期バンド、バンパイア

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いつの間にかバンドが日常になった。 おしゃれにも気を使うようになると、スーパーの買物すら楽しくなる。 少しずつ増えていくレパートリーは、私を楽しませ成長させていく。 歳を取ったからと言って腐っていてどうする。 あちこち、サロンパスだらけの身体だって良いのだ。 私は、安売りの大根をかかえながら練習しに行った。 「今日は、練習前に連絡があります。 皆さん、聞いてください。」 皆それぞれ椅子に座った。 「なんと、私たちのライブ決まりました。 全国大会にいくための予選です。 3月21日、あと6ヶ月です。」 静寂が部屋の中。 皆、天井を見たり、下を向いたり、無言でそれぞれの時間を過ごす。 「それ、いいじゃん。」 「うん。モチベーションあがる。」 「うん。最高。」 「やってやるぞー。」 「更年期最高。」 私たちは、弾けた。 ポップコーンみたいに。 内藤さんは、皆を優しい目で見ていた。 私たちは、いつにもまして一生懸命練習をした。 みんなが同じ方向を見ると、音が踊り強くなる。 長く生きてきた私たちの奏でる音楽は、若い頃の自由な音とは違う。 いっぱい背負った私たちの翼は、たくさんの夢とともに羽ばたけるのだ。 私は家に帰り、家族に報告をした。 「テレビとかでるの。」 「全国大会に行ったらね。」 「まさか悪魔の衣装着るの。」 「わかんない。」 家族は黙った。 静寂だ。 「やってみな。母さん。僕は賛成。誰にも反対させないよ。」 「私も、賛成。」 「うん、賛成。」 家族はみんな笑顔になった。 笑顔だ。 私は好きなことやって良いんだ。 肩から力が抜けていく。 さあ、カレー作らなきゃ。 美味しいカレーにして、みんなに食べさせよう。 大根買ってきたのに、大根どうしたら良いのかしら。明日煮物にしようかしら。 私は日常を心から楽しんでいる。
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