更年期バンド、バンパイア

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「今日は、曲を決めるよ。」 「みんなどうしたい。」 私たちは、それぞれの意見を出した。 静かな始まりとともに始まり、最高に盛り上がって終わりたい。 私たちは、ロマンス、ROSIER、エックスの曲順で演奏することにした。 おばさんが奏でるロック。 みんなに届いてほしい。 私は、お風呂で隆一になる。 また、子どもたちに通報された。 主人は、メールを返してきた。 「お母さんは、月になったんだよ。」 私は、まだ死んでいない。 何度歌っても難しい。 その日によって声が全く違う。 歌は難しい。 予選前、1ヶ月の頃、衣装が出来上がったと上越さんから連絡が入った。 トゲトゲしている、ジャケットに、ミニスカート、帽子を身につけた上越さん。 かわいい。 高階さんは、パンツスタイルだ。足の長い高階さんに似合うスリムなデザインだ。 川上さんは、スカート。天使の羽がついていて、刀を背負っている。 内藤さんは、かなり素肌が見える衣装だ。 帝王切開の傷跡も、ロックだ。 私はロングスカートだ。 真っ黒なワンピースでアダムスファミリーのお母さんみたいな格好だ。 メイクも上越さんの友人のメイクさんがしてくれた。プロはすごい。 私の丸顔が、ロックに生まれ変わっていく。 私たちは、お互いを撮影した。 主人にメールをしたら、若い頃の主人の姿が送られてきた。 そこには、ヤンキーだった主人の姿が、あった。 「何もかも忘れてぶっ壊してしまえ。」 昔の血が騒ぐようだ。 私は、それから毎日毎日暇があったら歌を口ずさんだ。何度練習しても足りない。 ひとつ良くなれば、ひとつだめになる。 気づくと夜中まで考えてしまう。 「少し休んだら良いのではないか。 無理し過ぎだよ。」 主人の言葉にイライラしていた。 私の大切な予選があるのに、私は泣き出したかった。 今日も練習しなくてはいけない。 歯を磨いていても、食事をしていてもロックが頭を離れない。 私は、とうとう倒れてしまった。 その日も練習をしながら風呂に入って出た。 着替えをして外に出た瞬間視界が真っ白になり、私は意識を失った。 気づいた時には、病院で点滴をしていた。 家族は心配そうに私を見ていた。 「ごめん。二人にさせて。」 主人は、子どもたちを待合室に行かせた。 そして私に向き合った。 「さえちゃん。よく頑張ったね。 さえちゃんは、いつも一人で頑張って僕をおいて行ってしまう。 でも僕ら家族は一緒だよ。 さえちゃんの楽しみは僕らの楽しみでもある。 だから、一人で行かないで僕らも連れて行ってね。」 私は泣いた。 たくさん涙が出てきて止まらなかった。 ひとりじゃない。私は一人じゃないんだ。 私は病院で久々にゆっくり寝た。 翌日退院してからもしばらくはゆっくり過ごした。 メンバーからも温かいメッセージをもらい心が温かくなった。 あと一週間。 無事にステージに立てると良いな。
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