2/3

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
 この昆虫探しは、先ほどの「お買い物」に比べれば数段楽だった。なんせ、家の裏には山林が広がっていて、周囲には住んでいる人もいない。誰にも会わずに、思う存分虫を探すことが出来るのだ。これに関しては、悠人は予め策を練っていた。  もちろん家の正面玄関から出て、それから裏へと回ってもいいのだが。会社勤めの父親やきちんと学校に通っている姉はまだしも、専業主婦の母親まで家に不在という時間は限られている。出来れば家族の誰とも、顔を合わせたくない。ならば、どうすればいいのか。悠人は部屋の窓を開けて、下を見降ろし。「これなら、いけそうだ」と考えた。  やせっぽちでひ弱な外見からして、運動は苦手だと思われがちな悠人だったが、引きこもり生活の影響もあって体力こそないものの、運動神経は決して悪い方ではなかった。ただ、いわゆるスポーツテストとか、そこまでいかない体育の授業などでの徒競走、その他の運動などで、生徒1人1人が順番に行い「結果を測定する」ような時に。「1人でやらされ、他の生徒の注目を浴びている」状況に、悠人は耐えられなかった。自然と委縮し、結果は散々なものに終わった。つまり、精神面の脆さが運動面に悪い影響を及ぼしていたと言えよう。  しかし、周囲に誰もいない、誰も自分を見ていないという状況であれば、悠人はそれなりの身体能力を発揮することが出来た。2階の窓から見下ろしたその光景は、悠人がその力を生かす絶好の機会だった。  まず窓を開けると、すぐ下に1階の屋根がある。これはコンクリで出来ていて、その幅は狭いものの、十分に両足で立っていられるだけの余裕があった。そこから屋根沿いに左手に進むと、雨どいのパイプがある。家の壁に沿って、2階の屋根から地上まで通じているパイプだ。これはそれほど頑丈な作りではなかったが、ここは悠人のやせっぽちな体型が幸いした。注意して、パイプに全体重をかけることをしなければ、それを伝って地上まで降りることが出来た。  
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加