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 それは2階にいると、ドアの外に出してある「弟が食べた後の食器のトレイ」を1階まで下げて来るよう母親に頼まれたりすることもあったので、そんな面倒も出来るだけ避けたいという思いもあったかもしれない。引っ越したころから訴えていた、窓から虫が入って来ることも含めて、1階に自分の部屋を作って欲しいと。  悠人は標本にした虫などをそのまま部屋の中で放置していたので、ずっと部屋にいる悠人はすでにマヒして感じなかったものの、ドアの隙間から異様な臭いが漏れて来ることがあるのは、食事を運ぶ母親も認めていた。  そこで美月の要望は無事に認められ、1階の物置だった部屋を美月の部屋に作り替え、中にあったものを2階の美月の部屋に運び込んだ。こうして悠人が小学校高学年の年齢になる頃には、「2階で1人きり」という、まさに引きこもりに打ってつけの環境が出来上がったのだった。  そこで悠人は2階に1人きりという好条件を生かし、自室を出て奥にある狭い物入れ部屋に入った。美月の部屋だった「現在の物置」とは違い、日常的に使わないようなものを詰め込んだ部屋は、悠人や美月の部屋とは作りが少し異なっていた。2人の部屋はフローリングの上に絨毯を敷いていたが、物入れ部屋の床は引っ越しをした直後に何度か入ったことがあって、歩く時に「ギシ、ギシ」と少し軋むような音を立てていた。恐らくそれは、この部屋の床は自分達の部屋より、「床の作りが薄くなっているのでは」と、悠人は考えていた。    物入れ部屋に入り、改めて板張りになっている床を「コンコン」と叩いてみると、明らかに自分の部屋より「軽い音」がする。ならば、この床の板を剥がせば。そこはすぐに「床下」になっていて、つまりそれは、「1階の天井」に繋がっているんじゃないか……? 悠人はそう考えたのだった。  都合のいいことに、2階の物入れ部屋のすぐ下が、1階にあるトイレのドアの前になっている。ここに1階への「出入口」を作れば、誰にも会わずにトイレに行けるんじゃないか。悠人は、その考えに夢中になった。
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