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 姉の美月は小学校中学年の頃から、目鼻などがくっきりと目立つようになり、高学年になる頃には「美少女」と言っていい顔つきになっていた。その上スタイルもよく、成績もクラスで上位という美月は、学校の中で「噂になるほどの美少女」として知られるようになっていった。  性格も内気な悠人とは違い、明るくハキハキとした好印象を受ける素養を持ち合わせていて、両親も美月の将来に期待するほどだった。だからこそ1階に部屋を移すという我儘も受け入れられたのだろうし、そして引きこもりになった弟と比べて「出来のいい姉」を可愛がるのは、両親にとって当然だったかのもしれない。  そして美月自身も高学年になる頃には、自分がそんな「周囲の注目を集める存在」であることを、意識するようになっていた。同級生の男子だけでなく、上級生や近隣の中学生までが美月に声をかけて来るようになり、そこで美月は中学に入学したあと、ひとつの決断をした。それは、「弟の存在を、いないものとする」ことだった。  自分に対し何かしらの目的を持って話しかけて来る男子生徒だけでなく、日常的に接するクラスメイトたちにさえ、自分の前で「弟」の話題を出すことをタブーとしたのだ。家族の話題に触れることがギリで許される範囲で、もし何も知らずに「兄弟はいるの」などと聞こうものなら、「きっ」と睨みつけるか「ぷいっ」と顔を背けるか、いずれにせよそれきり言葉を交わそうとしなかった。  こうして美月は学校で完全なる「1人っ子」として振る舞い、他の生徒たちもそれを暗黙の了解として認識するようになっていった。言い換えればそれだけ美月は学内のヒエラルキーで上位に位置する存在であり、その美月の機嫌を損ねること自体がタブーとされていた。よって、美月の「弟がいないかのように振る舞い、周囲がそれに追従する」ことも、自然と受け入れられていった。
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