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悠人は右手の親指と人差し指の先で、細いピンを持ち。慎重に狙いを付けた狭い「その箇所」に、「プスリ」とピンの先端を差し込んだ。
途端に「それ」を押さえている左手に、ジダバタと苦しそうに、もがく動きが伝わる。しかし悠人はピンを抜こうとはせず、逆にそのままピンを「ズブリ」と、更に奥へと差し入れた。悠人はこの時の感触が、大好きだった。細い針が、「生き物」の体を貫いていく感覚。ピンを持つ指は、確かにその生々しい感触を感じ取り、悠人の魂を奮えあがらせんばかりに興奮させていた。
やがて、パタパタともがいていた手足の動きが、徐々に弱まり。背中に差し入れたピンの切っ先が、「生き物」の体を貫通しようとする頃には、「ピタリ」とその動きを止めていた。
「ふう……」
悠人はため息をついて、額の汗をぬぐった。ここまでの「行為」を慎重に進めていた緊張感のせいもあるが、自分の行為に興奮するあまりに、顔が火照ったように上気し、自然と汗ばんでいたのだ。それだけこの行為は、悠人にとって何物にも代えがたい、恍惚の瞬間だった。
木更津悠人はごくありふれた、一般家庭の息子として生まれた。いや、金融会社に勤め、分譲地のセールス価格ではあったものの、40代でマイホームまで持てた父親の年収を考えれば、この先の見えない不況の時代に「恵まれた環境下」に生まれ育ったと言えるだろう。実際名前の「悠人」には、そんな両親の家庭環境を踏まえ、将来は「おおらかで、安定した人生を」という思いが込められていた。
しかしこの恵まれた環境は、悠人にとって必ずしも、幸運をもたらすものではなかった。小学校の頃から「金貸しの息子」として同級生からいじめの対象となり、「お前んちは、人に貸すほど金が余ってるんだろ?」と追及され、毎日のように金をせびられた。
もちろん会社のいち社員である悠人の父親が、自分の懐から金を貸しているわけではないのだが。子供にとってはそんな世の中の仕組みなどはどうでもいいことで、要は「いじめる理由」があればそれで良かったのだ。
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