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家族から公認された引きこもりという、完璧なまでに閉ざされた世界で。自室の窓から地上へ降りて虫を探しに行ったり、2階から天井裏に潜ってトイレへ行くなどの方法を自ら考案し「成し遂げた」ことで、悠人の自意識は過剰なほどに肥大していた。そこへ持ってきて、毎日のように女性の裸を見て、性欲も満たすことが出来る。悠人は、この世界があたかも自分のために作られているのではないかとすら、考えるようになっていた。
もちろんそれは、悠人が一歩家の外に出れば粉々に砕け散る、砂上の楼閣よりも更に脆い自意識であったのだが。元より引きこもりとなった時点で「将来の夢」など描いていなかったし、今が充実していればそれでいいと思っていた。こんな自分が「社会に出る」ことなど、不可能だとわかっていたから。
そして悠人は、裏の林で虫などを捕まえている時に、野生の動物を見かけたりすることがあった。野良猫や野良犬を始め、頻度は少ないがウサギやリスのような小動物など。最初は気にも留めていなかったが、虫の標本が増えていくにつれ、悠人はある欲求に駆られるようになった。あの動物も、「標本」に出来ないかと。
もちろん小さな虫のように、捕まえて虫かごに入れ、手で押さえてピンで刺すなどといった方法が取れるわけではない。では、どうすればいいのか。悠人はスマホで野生動物の生態や捕獲について検索し、その解決策を練った。
もともと悠人は学校での成績は悪い方ではなく、勉強をするのも嫌いではなく。むしろクラス単位では、上位に位置する学力を持っていた。しかし一度いじめの対象になると、この成績ですらもその要因となってしまっていた。理不尽なるいじめにもし少しでも逆らおうものなら、「テストの点が少しいいくらいで、調子に乗りやがって!」と更なる怒りを買ってしまうのだ。悠人にとっては学力の成績ですらも恨めしいものとなり、勉学への意欲は急速に薄れていった。
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