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 しかしやはり、物入れ部屋から1階へ行く方法や、風呂場を覗くための試行錯誤など、悠人にそういった「思考能力」が備わっていたのは確かだった。それももちろん、閉ざされた環境下でこそ発揮出来たものと言えたのだが。  こうして悠人は持てる思考力を生かし、林にいる動物を標本にする方法を考え始めた。まず、昆虫に刺すような虫ピンでは役に立たない。動物の体を貫けるような、もっと「大きな針」が必要だ……。しかしこれはさすがに、文房具屋に行って購入出来るものではなかった。  だがここでも、美月の部屋が物置になったことが幸いした。悠人は林の中で、真っすぐに伸びている固い枝を何本か見つけると、自室に持ち帰り。物置にあったカッターやヤスリなどで、その枝を加工することにした。横に延びている枝葉は切り落とし、先を尖らせて、ヤスリで更に鋭利にする。いわばお手製の「短い槍」のようなものだったが、悠人はしばらくの間この工作に集中した。  何本かの槍が出来上がったところで、次は「どう捕獲するか」について考えた。野良猫や野ウサギなどは上手く罠を作ればなんとか捕まえられそうだったが、問題はその後だ。自室まで連れ帰って標本にするには、ある程度大人しくさせなければならない。その場で殺してしまっても良かったのだが、出来れば「生きたまま」持ち帰りたかった。ならば、どうすればいいのか。  そこで悠人が思い出したのが、小学校の理科室にあった「麻酔薬」だった。もちろん小学生が気軽に手に出来るものではなかったが、そういう類の薬が置いてあることは認識していた。最初はそれをどうすれば購入出来るのかと考えたが、未成年が購入出来るものではなく、親に頼むわけにもいかず。そこで悠人が思い付いたのが、「学校から盗み出す」ことだった。  自分はもう小学生ではないし、もともと学校には引きこもりになった高学年以降通っていなかった。ならば自分は盗んだ犯人として、捜査の対象外になるのではないか。そんな、安易な思いつきではあったのだが。
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