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 それは安易な考えというより、そう思い込むことで自分を安心させようとしていたのかもしれない。いずれにせよ、麻酔薬を手に入れるためには盗むしかない、盗むなら薬局ではなく学校だという構想は、悠人の中で確実に固まっていった。  そして盗むとしたら実際に「どうやるのか」が最大の難関になってくるわけだが、これも「盗むなら夜中に、そうすれば人目にも付きにくい」という「言い訳」が成り立つことになり。悠人は遂に、実行を決断した。  実行に当たっては、盗み出すまでに障害となる出来事が起きたらすぐに中止するという前提を幾つか箇条書きにしておいた。1、学校へ着くまでに誰かに声をかけられたら、その場で中止する。2,理科室が自分が通っていた頃と違う場所にあり(可能性は低いが、もし改築などがあればあり得ない話ではない)、どこか探さないような状況だったら中止する。3,目的の薬品がすぐに見つからなかったら中止する――などなど。つまりは、実行しようとは思っていたが、何か不都合があればすぐに辞められるような「保険」を自分にかけていたのだ。  やはりそれだけ、家の外に出て犯罪行為をするという計画は、悠人にとって勇気を振り絞らなけらばならないものだった。ただこれも、ここまでの「家の中での行動」が上手くいっていたことが、悠人の背中を後押しした。ここまで上手くいっていたのだから、今度も上手くいくはずだという、一般的な基準に照らし合わせると、根拠としてはあまりにも頼りない自信が。    こうして、計画の実行日と決めたその夜。悠人は人目に付きにくいだろうと思われる、ダークな配色の服を着こみ、必要なものを詰めたリュックを背負って、いつものように2階の窓から地上へ降り。足音を潜めて、学校への道を歩み始めた。家が郊外に建っていることもあり、学校までは徒歩でおよそ4、50分。母と姉が通勤・通学や買い物に使っている自転車を使用することも考えたが、夜中に自転車で出かけていくのはそれだけで物音がするし、有効な手段とは思えなかった。
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