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学校までの道を、息を殺すようにしながら、ひたひたと歩き続ける。まだ小学校に通っていた頃は、目立つことのないようにしよう、自分は空気のような存在でいようと心がけていた。ただでさえいじめの対象になっているのに、目立つようなことをするのはもっての外だ。誰にも話しかけず、そして誰にも話しかけられない、誰の目にも見えない。そういう存在でありたいと。
ずっとそういう思いでいたから、こうして目立たない服装で夜道を歩いていても、自分は「誰にも見られないはずだ」と思い込むことにした。誰にも気づかれないよう過ごして来た自分が、こんなところで声をかけられたりするはずがない。そんな理不尽なことはあり得ない。「こんなことをして大丈夫か」という不安にさいなまれる自分を戒めるかのように、言い聞かせながら。
そして思惑通り、特に誰かに声をかけられたりすることなく、学校まで到着し。悠人は正面の入口ではなく、校舎の裏手に回った。正門とは反対側にある、学内と外部とを隔てる壁際には、古い用具の倉庫とゴミ捨て場があった。この倉庫は今は使わなくなった旧式のライン引きや古い跳び箱などを置いている場所で、しかもゴミ捨て場の隣に位置するこもあり、日中も生徒や教師がほとんど近寄ることのない場所だった。それだけにここは、学校に通っていた当時の悠人にとっての「聖域」だった。
授業と授業の間の短い休み時間はともかく、昼食後の昼休みなど、ある程度「時間が空く」時に、教室に1人でいたりしたら、たちまちいじめやからかいの対象になる。保健室もそうそう行ける場所ではなく、校舎の裏手にある滅多に人の来ない古い倉庫のある場所は、悠人にとって格好の「逃げ場所」だったのだ。倉庫とゴミ捨て場との狭い隙間に身を縮こませるようにして、悠人は時が過ぎるのを毎日のように、じっと待っていた。
そんな経験から悠人は、学内へ忍び込むなら「ここから」と決めていた。昼間でさえ人の近づかない場所に、夜中に誰かがいるはずはない。悠人は壁際まで近づき、「懐かしい場所」の前に立った。
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