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 学校の周囲を囲んでいる壁は2メートルほどの高さがあり、小学校の頃はそれなりに「高い壁」に思えたが、あの頃より背が伸びた今になって見てみると、乗り越えるのはそう難しくないと感じられた。  いずれにせよ、壁の前でウロウロしているわけにはいかない。悠人は思いきって壁の上に両手をかけ、勢いをつけてよじ登り。大きな音を立てぬよう気を付けながら、「壁の向こう」に着地した。まだ学校に通っていた頃の、狭苦しくも懐かしい「聖域」である場所に感慨を覚えながら、  足音を潜めながら校舎に近付き、窓際で身を屈める。正直、「この先」の行動については不安なところも多かった。悠人の通っていた公立校は、私立校に比べ夜間の警備などに予算を割いていないという話をネットで調べていた。それでも2001年に起きた※「池田小事件」の後は、生徒のいる日中は教師が交代で見回りなどの警戒にあたっているということだったが、夜間となればそれも緩くなる可能性は大いにあると考えられた。  現在は宿直などの人的要素を必要とする夜間警備は廃止され、ほとんどの学校が警備会社と連携した機械警備機能を備えているという。ならば、校舎に侵入した途端に警報ベルが鳴り出す危険もある。だがネットで調べた限り、警報が鳴ってから警備会社が現場に到着するまでの時間は、「15分以上かかる」とされていた。つまりその前に逃げ出せていれば、見つかることはないということだ。  その辺りは、いかにも世間ずれした引きこもりらしい安易な考えとも言えたが、例え見つかったとしても、自分の年齢なら大きな罪に問われることはないだろうという思いもあった。例え罪に問われても、初犯で少年院行きということはないはずだし、捕まったところで、引きこもりの自分が「学内で後ろめたい思いをする」こともないのだから。 ※外部からの侵入者により、学内で教師や生徒を含む8人の死者と15人の重軽傷者を出した、凄惨な事件。日本の犯罪史上稀に見る無差別殺人事件として、社会に衝撃を与えた。
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