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 こうして悠人は小学校の間ずっと、そんな陰鬱な毎日を繰り返していた。ある時は、学校へは行きたくないと駄々をこねる悠人を叱りつけようとした母親が、悠人の腕や足にアザがあるのを見つけ、「これはいじめではないか」と担任に直談判しにいったこともあったのだが。担任は「やれやれ」と言った顔で、面倒くさそうに母親に告げた。 「そう仰られましてもね……いじめの原因は、お父さんのお仕事にあるわけですから。こればっかりは、私どもにはどうしようもありません。正直、片親で毎月の給食費の支払いに困っているご家庭や、親御さんがリストラされて、派遣社員やパートの仕事でなんとか生活費を賄っている家庭もありますからね。そんな家庭の子供たちにとって、恵まれた環境下にある悠人くんが、ある程度羨ましがられたり妬まれたりするのは致し方ないことだと思います。  加えてあなたの旦那様は、金融会社に勤めてらっしゃる。人に金を貸し、人の弱味に付け込んで儲けている会社だ。クラスの子供たちの親御さんには、サラ金などに金を借り、毎月の支払いに苦心している方もいらっしゃるんですよ。そんな家庭の子供たちに、『親と子供は関係ない』とか、『金融会社も立派な仕事だ』などと綺麗事を言っても、納得してくれると思いますか? もし悠人くんをいじめの対象にしたくないと言うのであれば、まずはお父さんがもう少しまっとうなお仕事に転職されることをお勧めしますね」  いじめがあることを認めた上で「それは致し方ない」とまで言い切り、あげく父親に転職まで勧めてくる担任の言い草に、母親は心底呆れ果てた。家に帰った母親は、部屋の隅で縮こまったように座り込む悠人に、「もう、無理して学校行かなくていいから」と告げた。そう、悠人はこの時点で、晴れて「両親公認の登校拒否児童」になったのだった。
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