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ただ注意して割らないと、棚の中にある薬品の瓶も割ってしまいかねないので、窓ガラスを破る時よりも細心の注意を払った。ネットで調べた限りでは、ジエチルエーテルは人間にもある程度の麻酔効果があるらしい。間違えて中身が漏れてしまい、その場で意識が朦朧としてきたりしたらそれこそ一大事だ。その他にも、肌に付いたり吸入したら危険な薬品などが収納されている可能性がある。だから尚更、慎重を期さねばならない。
薬品棚を持ってきた非常用ライトで照らし、並んでいる瓶のラベルをひとつひとつ確認する。恐らく何かしらの規則性を持って並べられているのだろうが、そこまでの専門知識はネットで調べただけではわからなかった。しかし悠人は運よく、求める薬品のラベルを見つけた。「Diethyl Ether」という英文字の下に、はっきりと「ジエチルエーテル」の文字。悠人はゴクリと息を飲みながら、薬品棚のガラスにガムテープを貼り付け。窓ガラスを割った時と同じ要領で、「がつん」と叩いた。
割れたガラスを慎重に取り除いて、目的の瓶を取り出す。ここまで、全て計画通りに進んでいる。悠人はエーテルの瓶をリュックに仕舞うと、そこで「ふう……」と深く息を吐き出し。同時に、「やった……!」という大きな満足感を味わっていた。
だが、その感慨に浸っている時間はない。悠人は速足で入って来た窓へと戻り、外へ出るために窓枠に足をかけた。すると。
じりりりりりりりり……!!!
その途端、非常ベルのけたたましい音が鳴り響き始めた。悠人は驚きのあまりバランスを崩し、理科室のすぐ外の地面に、ばったりと転がり落ちた。これまで無事だったのに、何が原因で鳴り始めたのか。薬品棚のガラスを割ったことか、中から外へ出ようとしたことか……しかし、この場であれこれ考えている余裕などない。今はいち速く、この場を離れることが先決だ。悠人は気持ちを切り替えて、侵入口である「聖地」の壁際までダッシュし、壁の向こう側を「ちらり」と覗いた。
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