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 学校に行かなくなってからしばらく、悠人は2階の自室に閉じこもり、何をするでもなく、一日を「ぼおっ」と過ごしていた。何か時間潰しをするのであれば、買い与えられていたスマホを見るという手もあったのだが、何をするのも面倒だという意識が強かった。今はただ、「何もせず」に過ごしたい。なんの刺激も必要ない。それが悠人にとっての、ベストと言える「平穏な日々」だった。  しかしやがて、内に籠っていた悠人の意識は、少しずつ悠人の精神を蝕むようになっていった。それは、毎日のように小突かれ殴られ、「痛み」を感じ続けていた日々から、「なんの刺激もない日々」へと変貌したことの反動だったのかもしれない。その日も何もせずベッドに横たわっていた悠人は、体の節々に言いようのない「むず痒さ」を感じ始めた。  最初は無意識のうちに、腕や足などをポリポリと掻いていた悠人だったが、それだけでは物足りないと感じるようになり。ふと思いついて、部屋の床に投げっぱなしにしていたペンケースの中から、シャープペンを取り出し。芯を出さないまま、その先端を腕の皮膚に「ぐっ」と押しつけてみた。  ひんやりとした感触が皮膚に伝わり、そしてかすかな痛みが走る。その痛みは、むず痒さを和らげてくれそうな気がして、悠人は先端を更に強く「ぐっ」と押しつけた。「いてっ……!」思わず口に出してしまうくらいの痛みが、皮膚に突き刺さる。恐る恐る先端を離してみると、先端を無理に押しつけられた皮膚のその箇所は、ペン先の形を残したまま、ポコリと丸くへこんでいた。  その奇妙なへこみに、悠人は何か「そわっ」とする感覚を覚えた。それは決して不快なものではなく、意外にも「快感」に近いものだった。そして悠人は思いついた。シャープペンの先で、こんな快感を得られるのなら。「もっと尖ったもの」なら、「もっと快感を得られる」のでは……?  その思い付きは、悠人を更にゾクゾクとさせ、部屋の中で、それを実現させてくれそうなものを探し始めた。それは案外、簡単に見つかった。ぐるっと円を書く時に使う、コンパス。これならきっと、「間違いない」。
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