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 そして、今。悠人は初めて、その「快感を覚える立場」になった。もうこの快感を、手放すことは出来ない。これなしではいられない……!  悠人は左手で掴んでいた羽根を、思いきり引っ張った。蝶は再び激しくもがき、胴体の両側から「たらり、たらり」と緑色の液体が落ちている。悠人は引き千切った羽根を、もがき続ける蝶に見せつけるかのように、蝶の両側に並べて置いた。  ……これが、「お前のもの、だったもの」だよ。  悠人は心の中で、蝶にそう囁きかけた。そしてその、蝶の羽根をもがれた胴体を中心として、羽根を広げたようになっている「構図」に、しばし見とれていた。それは悠人にとって、何か例えようもなく、「美しく」思えたのだ。  この時以来、悠人は「昆虫採集」を始め、その「標本」を作ることにに憑りつかれていく。自分の思うがままになる命、自分の手の中で「どうにでも出来る」命。そんな、自傷行為をはるかに上回る「快感」を得られる行為に、悠人は夢中になっていった。
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