La dolce vita ~ 左手の誘惑

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 明日仕事を控えているせいか、松岡がいつもより早くベッドに誘ってきた。  隣りに座る成瀬の大腿に手を乗せ卑猥な動きをしたあと、肩に回して引き寄せる。「ねえ…… 行こう」と耳元で囁かれた成瀬が『これも左手だった』と感心していたら 「今日来ちゃマズかった?」 「えっ、どうして?」 「なんだか上の空だから」 「そんなこと、ないです」 「ほんとかなぁ……」 「週末じゃないのに部屋に来てくれたから『あれ?』と思って……。ねぇ、先生。昼間のことを慰めに来てくれたんでしょう?」 「ん~~ まあね」 「嬉しいです」 「そんな風には見えないけど」 「嬉しいのは間違ってないけど…… ごめんなさい、ほんとは考え事してました」 「やっぱり。で、なにを?」 「先生の利き手のこと。背中に回した手とかキスの時に触れた掌とか全て左だったな……って」 「いちいち観察してたんだ」 「やりだしたら止まらなくて」 「じゃあ右手と左手、どっちが器用でテクニシャンかジャッジしてよ」  そう言うと、松岡が口元にいやらしい笑みを浮かべたのだった。  喘ぎが止まらない成瀬は、肺に酸素を送り込もうと大きく息を吸い込む。松岡の愛撫がいつにも増して執拗だ。まず口づけが長かった。それはくどいと言ってもいいほどで、口内が彼の唾液で埋め尽くされる。このペースで進んだら寝る間もなく朝を迎えてしまう――― と、危惧するくらいなのだが、松岡は明日も出勤ということを無視して時間をかけるつもりのようである。  ぼんやりした意識をかき集めて観察していたら、キスをしながら愛撫する手が左だった。その指先は硬くしこった胸の突起を弄っている。捏ねたり擦ったり押しつぶしたり――― その動きは ねちっこく、本来の利き手はこっちだと あたかも主張するかのよう。だけど、張り詰めたペニスに潤滑油を垂らして愛撫する時、早く受け入れたくて ひくつく後孔を解し感じる箇所を責める時は右手が動いていて…… 「どう? ひかる。俺の手って」  再び付き合うようになって以後、ベッドでは下の名前で呼ぶことが多くなった恋人に「どっちも いやらしい……」と、息も絶え絶えに答えたら 「僕もさ、最近発見したことがあってね」  そして、陰嚢をひっくり返すと 「ここに小さな黒子が。前にもあったかな?」 「そんなの…… 知りません」 「オリオン座みたいに三つ並んでて。彼氏さんに言われたことない?」
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