La dolce vita ~ 左手の誘惑

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 どうしてこれからという時に昔の男の名を――― と、眉をひそめた成瀬だったが、最近よくあることだった。  セックス中、松岡はワザとのように塔矢のことを持ち出して「彼と比べてどう?」とか「彼にはどんなことをしてもらった?」とか尋ねてくる。そういったデリカシーのなさ、昔はなかった。いや、これも【左手】同様気づかなかったことなのだろうか――― と、少しばかりクールダウンした頭で考えたけれど『いや、違う』そう判断を下す。塔矢への嫉妬をわざわざ口に出す。しかも、最中に言ってしまうのは――― 恐らく【老い】のせい。衰えを自覚して生じる不安や焦り、慣れない土地で支えになっている恋人から見限られるんじゃないかという恐怖心から発せられたと考えると物悲しく且つ哀れで、励ます意味でも慣れない睦言を口に出した。 「先生だけ、そういうの気づいてくれるのは……」 「そう?」 「こんなに隅々まで愛してくれて…… 嬉しい」 「今日のひかるは おだて上手だね」 「だって本当だから……。ねえ、先生?」 「なあに?」 「むかし抱いてくれた時より すごくいやらしい。別れてから何人の人と付き合ったんです?」 「教えない」 「おれ、嫉妬します」 「焼いてくれるの? 嬉しいな」 「浮気しちゃいやですよ」 「この村で誰とするっていうの?」 「約束してくれますか?」 「もちろん。僕には君しかいない」  セックスの際、臆面もなく自分をさらけ出すタイプではない成瀬は、このような甘えた言葉を口にするが公衆の面前で裸になるくらい恥ずかしかったが、恋人を安心させる為に頑張った。しかし、言うと意外と快感で、その後も過剰なくらい声を上げ、喘ぎ、悶えると、脳内麻薬が分泌されたのではないかと思うほど開放的な気分になるのだった。
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