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とろ火で炙るような愛撫に堪り兼ね、そろそろ欲しいと懇願しようとした矢先―――
「でもね、『君が変わっていない』と感じることが多々あるんだ」
松岡が話をぶり返したため『まだ焦らすのか』と、呆れていたら
「【いびき】。この前、あれで目が覚めた」
「そんなこと、今言わなくたって……」
「いや、懐かしかったんだ。昔、一緒に寝ていて起こされたことがあったから。ねえ、あれから手術はしなかったの?」
その言葉に、成瀬は意識を20年前に遡らせた。あれはまだ、松岡と付き合っていない頃。慢性扁桃炎で高熱が出て診察してもらった際、摘出手術を勧められたのだ。
「病院を辞める時、残っていた有給を使って入院、手術しました。でも、相変わらず酷いみたいですね」
「前より軽くなってるよ」
「でも、起こしちゃたんだ」
「懐かしくて、しばらく聞き入ってしまった」
「すみません」そう成瀬が謝ると、「それだけじゃない、他にもあるんだ」
「まだあるんですか!」
「相変わらず方向音痴だなと。往診の時、車を運転してくれるじゃない。その時、近道があるのにワザとじゃないかって思うほど遠回りしてる。あれ、同じ道じゃないとわからなくなるからだろう?」
松岡から指摘を受けて唖然となる。確かに、方向音痴の自分は新しい道を開拓するのが苦手で、判で押したように同じところしか走ることができなかった。
「昔旅行に行ったとき、君にナビを頼んだら地図があるにもかかわらず通り過ぎたり、違った方向を案内したことがあったよね。だから、ここへ来て助手席に座った時、そのことを思い出して嬉しくなっちゃった」
「すみません、運転が下手で……」
「いやいや、二十年の空白が縮まった気がして感激してるんだ。ここで一緒に過ごしてみて、君が変わっていないことを知ったよ。真面目で素直なところも昔のままだ」
そう言った後、松岡から慈しみの籠った瞳で見つめられ、瞼の上にキスされた成瀬は意識をタイムスリップさせていた。
まだ若かりし頃、恋を知ったばかりの自分は加減も知らず松岡にのめり込み、愛し愛される充足感で満たされた。なので、彼との別れは身を切られるほど辛くて、乗り越えるために気持ちを心の奥底に押しやり前へと進んだ。その時封印した恋慕が彼と再会したのち徐々に解かれ、いま完全に息を吹き返したのを自覚した。
――― もう、迷いは捨てて愛してみようか
そう思った瞬間、成瀬は松岡の背中に回した腕に力を込め、その首筋に頬を埋めたのだった。
――― end
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