4.散策

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 当時のことをつらつらと考えながらコインパーキングに車を止めた。 「結構変わっちゃったなぁ」  記憶を頼りに昔歩いた道を辿ってみる。もう何十年も経っていることもあり街の景観は随分変わってしまっていた。当時できたばかりだった駅前の商業施設もさすがに老朽化している。それでも見覚えのある古い民家が何軒か残っており妙に嬉しく思った。自然と私の足は当時通いつめた書店へと向かう。さすがに道路は舗装されていたがこの辺りの街並みはあまり変わらない。このまま真っすぐ行って、もうひとつ角を曲がればあの赤い屋根が見えてくるはず、そう思いながら道を歩いた。 「あ……」  思わず落胆のため息が漏れる。建物自体は残っているが店はとうに閉めてしまったらしく錆びだらけのシャッターが下ろされていた。まぁ当然といえば当然なのかもしれない。当時から流行っているようには見えなかったし。二階の窓も雨戸が閉まり中の様子はわからない。その時、不意に声をかけられた。 「あれ? ひょっとして三好さんとこの子じゃない?」  振り向くと腰の曲がった老婆が嬉しそうに私を見ている。 「あ、はい。三好です。ええと……」 「川村よ、川村一郎の母よぉ。まあまあ立派になって。でも面影残ってるわ」  名前を聞いた途端当時の記憶が蘇った。一郎はあの日バスで私に話しかけてきてくれた男子だ。 「ああ一郎君の! 一郎君、お元気ですか?」  私たちはしばし昔話に花を咲かせた。彼は何と海外移住し今はアメリカに住んでいるのだという。
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