1.初孫

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 三年前、ひとり娘の咲良(さくら)に子供が産まれた。初孫である。娘が産まれた時も嬉しくて仕方なかったが孫はもう無条件に可愛い。妻などは「自分の子の時は慣れない育児で可愛い盛りなんかあっという間に過ぎちゃったからね。孫で取り返さなくちゃ」と張り切っている。まぁその言い分はわからなくはない。私も当時は現役の会社員でなかなかゆっくり娘と過ごす時間もなかった。娘夫婦に鬱陶しがられない程度に孫を可愛がろうと思っている。  名前を付けるときも大騒動で、妻に至っては何十もの候補を挙げて皆を困らせた。結局私が何の気なしに挙げた〝すみれ〟という名に落ち着いたのだが、妻は面白くなかったようで「昔の恋人の名前とかじゃないでしょうね」なんて言いしばらくの間ご機嫌を損ねていた。昔の恋人の名前などでは断じてないが、どうして〝すみれ〟という名が頭に浮かんだのかは不思議と覚えていない。  娘夫婦は隣県に住んでおり車で一時間ぐらいの距離だ。妻の両親が頻繁に訪問するなど迷惑以外のなにものでもないのではないかと思うのだが、夫の隆司(たかし)君が「慣れない土地で不安だと思うので来てもらえると助かります」なんて言うものだから妻は調子に乗って足繁く娘の家に出向いている。当然送り迎えは私の役目。娘夫婦の家にじっとしているのも何となく居心地が悪いので、妻を送り届けると駅前のパチンコ屋などで時間を潰していた。
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