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その日も私は妻を娘夫婦のマンションに送り届けた後ひとりでドライブでもして過ごすつもりだった。
「ドライブかぁ。いいわね。あ、そういえばあなたって昔はあの辺りに住んでたんじゃなかったっけ」
ああ、と私は頷く。
「咲良の住んでるとこからはちょいと離れてるけどな」
「今でも交流のある友達とかいないの?」
「いない、いない。中学二年の頃に一年ぐらい住んでただけだしな。思い出らしい思い出もないよ」
そう答えつつもある風景が脳裡に浮かぶ。未舗装の砂利道を進むと見えてくる二階建ての古びた建物。赤い屋根のその家は一階が書店で、二階が住居になっていた。
「どうしたのよぼうっとしちゃって」
妻の声にハッと我に返る。
「いや、当時よく行った本屋があったなと思い出してさ」
「へぇ、そうなんだ。街の様子でも見に行ってみたら? 偶然初恋の人に再会しちゃったりするかもよ! わぁ、いいなぁそういうの」
少女のようにキャッキャッとはしゃぐ妻に苦笑しつつ、まぁそれも面白いかもしれないと思う。私は妻を娘の住むマンションに送り届けると当時住んでいた街に車を走らせた。
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