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父は転勤の多い仕事で私は小中合わせ何と五回も転校した。小学生の時に三回、中学の時に二回だ。その度にせっかくできた友達と別れ人間関係はリセットされる。嬉しいはずもない。
「えー、また転校?」
父から引っ越しが決まったことを告げられる度、正直言ってうんざりした。
「母さん、僕このままここに住みたいよ」
しょげかえる僕を見て母は苦笑し「そんなこと言わないの」と慰めてくれるがそれで収まるものでもない。
「だってさ、また『はじめまして』からだろ? みんなの前で自己紹介してさぁ」
口を尖らせる僕を見て父は「そんなの転校生なら誰でも通る道だ、我慢しろ」と難しい顔で言っていたが、そもそも転校しなきゃそんな目には遭わないわけだから〝誰もが通る道〟とは違うだろと内心思っていた。言っても父の機嫌が悪くなるだけだとわかっていたから言わなかったけれど。今思えば父も毎度毎度新しい職場に慣れるまではそれなりに気苦労もあったろうと思うが、そんな風に思えるようになったのは自分も社会人になってからだ。
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