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翌日はよく晴れた遠足日和だったが一緒に騒ぐ友人もいない。皆がはしゃぐバスの中、手持無沙汰な私は窓の外を流れゆく景色を眺めていた。すると隣の席になった男子がいきなり「なぁ」と話しかけてくる。
「お前、転校多いの?」
何と言って答えたらいいのかわからず曖昧に頷くとその男子ははにかんだ笑顔を見せた。
「俺たち転校生って慣れてなくてさ。何か話しかけにくいっていうか。でもせっかく隣になったんだからお喋りしようぜ」
私は戸惑いつつも「ああ、うん」と返事する。話してみればそこは同い年の男同士、すぐに打ち解けた。遠足は思いがけず楽しいものになり、それ以来少しずつクラスにも馴染んでいった。
「お前、好きな女子とかいねぇの?」
こんな話もするようになったがどうにも答えようがない。真っ先に浮かぶのはあの日見た書店の女性。彼女は私にとって初恋のひとだったのかもしれない。でも女子高生をオバサン呼ばわりする連中もいるぐらいなのに二十代後半であろう女性の話なんてしたら変なヤツだと笑われるのがオチだ。私はいつも「そんなんいないよ」と答えていた。
翌年再び父の転勤に伴い引っ越しをするまで私は書店に通い続けた。でも再びレースのカーテンが開くことはなく、彼女の姿を見ることはできなかった。私の初恋はあっけなく終わりを告げたのである。
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