貴族令嬢だった

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貴族令嬢だった

外からもれ入る光で、部屋は明るくなり始めたけど。 ・・・鏡の近くは、まだ薄暗かった。 まず目に入ったのは薄紫の・・・ナイトキャップ? レースは可愛いけど、なんだかもっさりした帽子。 そういえば、さっき。ばっと振り向いたのに。 いつもなら頬を打つ私のかたい髪の毛が襲ってこなかったっけ。 これじゃ、髪色も何もわかんないよ。 よし! ナイトキャップをはぎ取って。一緒に鏡台の明かりも点ける! ・・・おおぅ。こうきたか・・・。 大きな瞳に高い鼻。磁器のようなすべすべ質感の肌は白く輝いてる。 唇はふっくらと。でも小さくって。・・・困惑してるその表情まで可愛い! 記憶ではマツエク行ったばっかりだったから、気にしてなかったけど。 このふぁさふぁさしてるまつ毛は自前だったよ!びっくり! わたしが盛りに盛った化粧した時より、ずっとはっきりとした綺麗な顔が。 すっぴんでこっちを見てる。 うん。もちろん。 嬉しくはある。 ・・・だけど。 だけどさぁ・・・。 わたしの記憶では昨日、美容師さんにお勧めされて。オリーブベージュに染めたばかりの髪色は。 漆黒。 瞳もまた黒色。・・・うんいくら見つめても黒。 いやこれ、小さい頃のわたしの色だから! せっかくの転生なのに、ストレートの髪ってどういうこと?! ご令嬢といえば縦ロールだっ!(個人的願望!!) 鏡の中を見れば見るほど、違和感でもぞもぞしてしまう。 黒髪に黒目だと、どうしても”わたし”の容姿を思い浮かべちゃう。 誰だ?これ。 わたしのはずがない。こんな可愛いはずがない! ・・・なんか()だ。自分で言ってへこむ。 せめて瞳の色くらい紫だったらなぁ。カラコンとかいれたいよぉ! この世界にコンタクトは・・・あ、無いな。 がっかり。 はぁぁ・・・。しばらく落ち込んでしまって。 少しずついろいろ・・・浮かんでくる。思い出してきてるって言うべきかな。 え?・・・この世界って眼鏡も無い? そ、そんな! メガネイケメン好きのわたしはどうやって生きていったらいいの?! あれ・・・でも。うん。 公爵令嬢として生きてきた記憶もちゃんとあるんだわ。 良かった。テーブルマナーひとつ知らない”わたし”しか居なかったらとんでもないことになってたよ。 ん?公爵令嬢? わたしは公爵令嬢なの!? ええっと・・・。 わたし・・・わたくしは17歳。・・・おおう、3つも若返ってる! 我が家は・・・この国唯一の公爵家で。 その長女がわたし・・・。 あ、でも兄さまがいる。 ・・・いやだ、恥ずかしくなってきた! ふたりいる兄さまは、どっちもわたしに甘くって。 ほんの最近まで、餌付けされてた・・・。 有名なパティスリーのお菓子を競うように買ってきては。 「あーん」って。それ!兄妹の距離感おかしくない?! そうよ! わたくしもそう思ってて。 夜会デビューのタイミングで。 「もう食べません!」ってお断りしたの。 夜会デビュー・・・? そうだ、先月! 学園を卒園し、夜会へデビューいたしましたっ! えええぇぇぇぇ。 どうせなら夜会デビューの前に思い出したかったよぉ! あのドレス、もいっかい着たい!! 生涯で一度きりしか着ないのにあんなにお金かけて! 貴族はなんて勿体ないことするんだ! 今着れるなら、あんなつまんなそうな顔はしない!絶対! ・・・うわぁ。赤面するような思い出ばっかり浮かんできてる。 あの日、わたくしが出かける前のお兄さま達は凄かった。わたくしを褒めすぎだった。高い高いされそうになって、びっくりして侍女の後ろへ隠れたわ! ひとつ思い出すと、ずるずると記憶が繋がって出てくるみたいな感じ。 なんだかふたりで話してるみたいに。 公爵令嬢の記憶に引っ張られてお上品になったりしてる? キレーだったなぁ。夜会のあれこれ。皇宮も煌びやかでさぁ。 デビューするご令嬢の中で一番の高位令嬢がわたしで。 そうよ。だからあれはつまらなさそうな表情ではなく、とっても緊張している表情なんですっ。 しかも、パートナーは・・・。 あれ? 夜会デビューは、婚約者様とご一緒だったわ。 浮かぶのは、わたしより頭ひとつ分背の高い黒髪黒目。 ・・・やっぱりその色で、彫の深い顔立ちに違和感。 ち、違うから。彫が浅くたってねぇ!イケメンはちゃんといるんだから! 実際、わたしの数少ない友人たちもみんなイケメンだから。男女ともに! ・・・ううう。 でも婚約者様には負けるかも。 柔らかな表情なのに、高貴さが消えてない。人形のような整ったイケメン。 ・・・眼鏡似合いそう。 優しい微笑みを浮かべたまま。あの夜は、わたしのそばにずっと居てくれて。 ふたつ年下の殿下も、あの夜会をデビューとしてくださった。 だから、伝統的なご衣裳を着ていらしたわ・・・。 皇族なのに遅いデビュー。 それは。 わたくしが、から。 ・・・なんてこったい。 幼馴染のあの人は。 皇太子殿下じゃないの! 通常、皇子殿下がたは、10歳前後で夜会へデビューされるのが普通なのに。 あの伝統的な衣装は、だから。ほんの少し子どもっぽいデザインになっていた。 ・・・それでも、殿下はよくお似合いだったけども! 我が国の皇太子殿下。その婚約者のわたし。 そ、そんな! わたし、本当に悪役令嬢なの!? ・・・どうしてよっ。縦ロールじゃないっていうのにぃ!!
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