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うおお。悪役令嬢だったよ
ああ。わたしは悪役令嬢だ。
はぁぁぁぁ。
どんどん思い出して・・・どんどん落ち込んでいく。
社交界の噂は最悪。
我儘で。わがままで。我が侭な令嬢。それがわたし。
それでも。だぁれも!面と向かって文句は言えないんだけどねっ。
わが国には今!公爵令嬢は私だけだもの。
皇女殿下はおいでじゃないから、女の子の中で1番身分が高いのはわたくし。
直接何か言われたことは一度もない・・・うん。無い。ぎりぎりの嫌味だけ。
とはいえ、陰口ってやつは結構堪えるもので・・・。
「あんな我儘な方が、皇太子妃になられるなど。納得できませんわよね?皆様」
「ええ、本当に。・・・皇太子殿下はお優しすぎますわ」
「皇帝陛下ただおひとりのお子様でいらして。別に公爵家との縁など求めなくても良い立場でいらっしゃるというのに・・・」
「そうですわ。伯爵家からお妃を迎えられても問題はありませんのに」
「皇家のほうから、たってと望まれた婚約だと聞きましたけど・・・。
ねぇ?皆様?」
「ええもちろん。誰も信じておりませんわ。
公爵家がわざと流された噂だ、とみんな思っておりますもの」
「先日も、また我が儘を仰ったそうですわ。殿下からいただいた宝石が気に入らないといって、突き返したとか」
「信じられませんわ!」
「殿下がお優しいからと、言いたい放題にやりたい放題」
「いいかげん、殿下も目を覚ましてくださったらいいのに」
「そうですわよ!もっと妃殿下としてふさわしい方がたくさんいらっしゃるわ!」
あ。ちょっと思い出しただけで泣きそう。
いくらなんでも頂いたものは突き返したりしてません!
わたしと殿下の婚約が調ったのは、9歳になるころだった。
それ以前から殿下とはふたりでよく会わされたし。たぶん、最初から婚約させる気だったんだと思う。どちらの家も。
5,6歳の交流会の頃から。わたしは殿下をひとりじめにしていたそうなんだよね。
交流会っていうのは、お茶会の体裁で小さい子どもたちを遊ばせるものなんだけど。・・・同じ年ごろの令息令嬢と仲良くなるために行われるというのに。
「殿下とふたりでお散歩に行くの」とか言って。
殿下をそのまま会に戻さなかったそうだ。
・・・そのころの記憶は朧気。あんまり覚えてない。
だけどそこから数年。婚約した頃からのことは覚えてる。
その頃にはもう、社交の真似事が始まってて。
殿下と一緒にいろんなお家のお茶会に出席していたんだけど。
・・・けっこう。急にキャンセルしちゃってた。
髪が綺麗にセットできなかったから、と殿下を巻き込んで。ふたりで侯爵家のお茶会に行かなかったことがある。
どうしても離宮にしか咲いていない花が見たいから、殿下に連れて行ってと頼んで。他の侯爵家主催のお茶会も行かなかったことがあるし。
殿下のために東の塔につくられたブランコに乗りたいから、と。やっぱり殿下と一緒に・・・皇宮でのお茶会もいきなりやめちゃった。あの時には、皇后さまが取りなしてくださったそうだ・・・。
視察にだって、婚約してからは殿下と一緒に行っている。
皇太子になられた殿下は、国中を見て回るのもお仕事で。
その旅に、わたしがいつも一緒に行くから。旅程は毎回、数日多く見積もられる。
旅先の景色がいいからもっと見ていたいの。と。1泊予定のウォルナット伯爵家で2、3泊することは、もう毎回の決まりごとのようになっちゃってるし。
地元の職人にお土産の作成を依頼して。出来上がるのを5日もその土地で待ったことだってある。
あの時に泊まっていた子爵家は、公爵家の派閥で。子爵閣下はすごくわたくしを可愛がってくださったっけ。
国の行事にだって。
殿下と一緒に参加はするけど。
殿下がほかの女性と話したからもう嫌。帰ると駄々をこねたりする。
殿下のエスコートじゃなきゃ動かない。と殿下を連れて、皇宮に帰ってしまうまでが。テンプレ。
はぁぁぁぁぁ。
最近も、夜会をドタキャンしたな。理由もまた最悪。
・・・殿下の贈ってくれたドレスが気に入らないから、だとさ!
・
はぁぁぁぁ。何度目のため息だ。
わたしは頭を抱えてしまう。
・・・ほら、こういう転生ってさぁ。
悪役令嬢だ、ってわかってからの面白さっていうか。
断罪まで数時間しかない中で、一発逆転の秘策を練ったり。
何年も前に気づいた時には、性格を見直していい子になったり。
ヒロイン助けたり。婚約者との関係改善したり。
とにかく悪い噂を払拭するために動くんだよね?
断罪確定の場合には、金を貯めて断罪後の生活の準備したりもするんだっけ。
・・・わたしには出来ない。
困った。
上記のぜぇんぶ。わたしには出来ない。
あ、断罪後の生活の準備ってやつは、する必要がない。
悪役令嬢ですって判ったけど。
・・・だからって、何にもすることがない。
わたしはこのままでいるしかないんだわ。
・・・ん?
あれ、でも・・・。
いいこと思いつく寸前に、ノックの音がしてびくっと飛び上がってしまった。
「ひゃ、ひゃい」
慌てて返事をしたけど。声がひっくり返ってるよ・・・。
「おはようございます。皐月お嬢さ・・・ま?
何をなさっているのですか?」
ベッドを一瞥して、鏡台に座ってるわたしを見つけてくれたのは。
やっぱり黒髪黒目、の侍女。
ワゴンを押して入ってきた彼女は。
わたしにガウンをさっと着せてくれて、温かいお茶を飲ませてくれた。
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