父親ってたいして変わらないのね

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父親ってたいして変わらないのね

「お昼ですわ、お父様ぁ。昼食をご一緒しましょうぅ」 執務室の扉をノックしながら大きな声を出す。 や、やめて!淑女らしくしてよ! って心のどこかが言っているけど、知ぃらない! 「軽食をご用意致しましたわ!お父様ぁ」 だって、わたしは早くコウに会いたいんだもの!! 皇宮へ行ってもいいかと聞いたら、お父様は駄目だって。 その上。 今日は家でお仕事をなさるから、皇宮にはお父様も行かないんだって。 殿下のご様子を代わりに見てきてとも言えないじゃないの! 駄目って返事をもらってすぐに。面会を申し入れたのに。 【パパはお仕事中だからあとでねハート】 みたいなカードが届けられた(うん、勝手に日本語で意訳してみた)。 美辞麗句が並べてあっても、その雰囲気はコレだもの。 父さんが好きだったように、お父様も好きだけど。 娘としてはこう言うべきよね? キモい! どうして皇宮へ行ってはいけないのか、きっちり説明してもらうんだから! 「お・と・ぉ・さ・ま・ぁ!」叩く音にあわせて声をもっと大きくしてみる。 はぁぁ、って声がしたのは。わたしの心と執務室の中と同時だった。 「お入り」 芹が開けてくれる前に、自分で扉を開けちゃう。 「お父様。さ、説明してください!」 ・・・あれ、何を説明してほしいのか言うの忘れた。 ま、わかってらっしゃるわよね。 「わかったから、そんな顔をしないでくれ」 じろって睨みつけるとお父様は苦笑なさる。 ふふん。ちゃぁんと思い出してますからね! わたくしには皆すっごく甘いってこと。わがままを聞いてもらえなかったことなど無いんだから! 「・・・しかし。その前に少し聞きたいことがある」 むぅ。まぁいいわ。 「・・・いいですわ。でも。お話がすんだら、殿下のご様子を見に行ってもいいですか?」 「・・・一度は行かねばならないが・・・。 しばらくは無理だ。私がいいというまで待てるなら許可しよう」 ううむ。押したほうがいい?引いたほうがいい? わたくしの記憶からもこんなお父様は出てこない。いつ何を言っても、いいよとしか仰らないのに。 仕方ない。いつもと違うなら、引いておくか。と結論付けた。 「わかりましたわ」 「とりあえず、お座り」 とお父様は。執務室にあるソファへエスコートしてくださる。 すでに、芹は軽食を用意してくれている。お茶をふたり分注ぐと、お父様は芹に出ていくようにと声をかけた。 ・・・内密なお話なのかしら。芹にはどうせ話しちゃうのに。 芹がきびきびとした礼をとって出て行っても。お父様はしばらく黙っていた。 どこかで見たことある顔だなぁ・・・って。 向かいに座ったお父様をじぃぃぃっと眺めて。 あ。 わたくしにそっくりなんだわ! 黒髪に黒目。整った顔立ちに少々のしわ。童顔。可愛らしい感じのお父様。 わたしの視線を避けるように軽食をじっと見つめてる。 とうとう。 大きく息を吸い込まれると。 「・・・学園は、楽しかったかね?」 ?何をいまさら?わたくしもう卒園したんですのよ? とっても言いにくい話だから、世間話から始めるつもりなのかしら? 「ええ、楽しかったですわ。 卒園してしまいましたから、余計にそう思うのかもしれませんけれど。 良いご友人に囲まれて、素敵な学園生活を過ごさせて頂きました」 「皐月は5年間。皇太子殿下は4年間通われたのだったね」 ふたつ年齢が離れているので、殿下は2年後にご入学の予定だったのだけれど・・・。 1年早く入学してくださった。 国立アキツド学園は。学ぶ気持ちのある子どもすべてに入園を許可すること、と決まっていて。 そこに庶民も貴族もない。 学費はすべて国が賄っているけれど、働かなくては生活できない方もなかにはいらっしゃるから・・・。 最短で3年。最長で10年学ぶことが出来るの。働きながら、通うことが出来るように。 入園の年齢も12、13歳と決めてはあるけれど。絶対ではなくて。 確か、8歳か9歳かそのくらいから入園が認められる。 そんな事をしちゃうのは、相当の天才だけだけど。 だって。12、13歳には卒園してしまうのよ? 同じ年齢のご友人が作れなくなってしまうわ。 だけど。 優秀な殿下も3年で卒園の予定だった。 入園の年齢を通常通りにすれば、卒園がわたくしと一緒になるから。 ちょうどいいと言ってくださっていたのよね。 もちろんすぐに単位を修められたから。去年、卒園なさっても構わなかったのに、わたくしを待って・・・わたくしと一緒に卒園なさった。 「ま、通ったと言っても。殿下はひと月に10日ほどしか、出席なさらなかったけれど」 「・・・殿下は皇宮でのお仕事もおありですもの、仕方ないと思いますわ」 わたくしが庇うと。お父様は苦い顔をなさる。 ちょっとだけ、重くなった雰囲気の中。しばらく、軽食を食べることに専念して。 一息つくと、お父様はまた(くち)を開いた。 「・・・プラタナス殿下を覚えているかね?」 当り前じゃないの。 「はい、もちろん」 それは、隣国の第2王子殿下のお名前で。 アキツド学園へ留学され、わたくし達と一緒に卒園なさったわ。 ご帰国なさる前に、わが家へ招いたことを。お父様こそ、お忘れなのかしら? プラタナス殿下は、皇帝陛下の甥にあたられる。 お母さま、隣国の王妃様が。皇帝陛下のご姉妹なの。 それで我が国へいらして、学園の寮にお入りになったんだけど。 王子殿下がいらっしゃる前に。 わたくしは皇帝陛下に呼ばれ。 「君に学園でのサポートを頼みたいんだ。 プラタナスはとても優秀で、面白い子だよ。 皐月嬢と同じ年齢だから、卒園まで交流を持ってほしいんだ」 直々にお言葉をいただいた。 1年目は、わたくしだけ。 2年目からはわたくしと皇太子殿下が、学園でのサポーターとなった。 ご不便が無いように務められたと思うわ。 「すごく楽しいお方でしたわ。博識で、柔軟なお考えをお持ちで。 お父様だって、すごく褒めていらしたわよね? ・・・でも、王子殿下がどうかしましたの?」 どうしてプラタナス様のお話なのかしら。
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