La dolce vita ~ 酔いどれとジェラシー

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 松岡と暮らしはじめて約3か月。探り合いと擦り合わせを重ねてきた成瀬だが、いまだに慣れないことがあった。それは……  プルルル…… ♪  松岡のプライベート用のスマホが頻繁に鳴るのだ。  事実上、第一線から退いた身なのに この付き合いの多さは? 一体どんな用件? と、気になるけれど、もちろん聞けない。プライベートを詮索するのは野暮で みっともないと思うからだが、そそくさと書斎に引っ込まれると悶々としてしまう。浮気の前科があるから『もしや、第二の野々村(※1)の存在が?』と悩んでいたら、ある日、松岡からこんな提案をされた。 「そういえば、パスコードを教えておこうかな」 「パスコード?」 「携帯のロック解除の。もしもの時に備えて」 「……」 「【197136】…… これなら覚えやすいだろう」  心を見透かしたような提案にドキリとしたのも束の間、恋人が設定したパスコードが自分の誕生日だったため、顔が林檎のように染まっていく。 「そんなの恥ずかしいから変えてください」 「え~ なんで? 君と僕しか知らないんだから いいじゃない」 「大体、先生の【もしも】ってどんな時なんです?」 「そりゃあ、事故にあった時とか具合が悪くなった時とか」 「わざわざ先生のスマホから連絡するなんてないです。万が一の時は、ご実家の旅館に電話します。それでいいでしょう?」 「まあ、そうだけど……」 「一応、息子さんの連絡先も聞いておきましょうか?」 「……」 「もしかして、別れた奥さんのもいります?」 「いらない、いらない」と、掌を横に振る松岡を苦笑いしていた時だった。食卓テーブに置きっぱなしの成瀬のスマホが鳴り出して二人の視線が注がれる。 『こんな時間に誰?』と、自分のことは棚に上げて不服そうな顔をする松岡に背を向けてタップする。「もしもし、どうされました?」と、すぐさま要件を尋ねたのは、最近よくかかってくる相手だったから。 「…… わかりました、すぐに行きますね」そう言って電話を切った成瀬は先程とは打って変わって恐縮した顔をした。 「すみません。大家さんが来て欲しいと……」  大家とは、松岡と同居するまで世話になっていた老夫婦のことである。 「今度はどうしたの?」 「電球が切れたから取り替えて欲しいと」 「…… そりゃ行かないとね」  そうは言ったものの、度々の呼び出しに松岡の表情は苦虫をつぶしたようになっていて、成瀬は まともに顔を見ることができなかった。  最近、成瀬は週一回のペースで呼び出しを受けていた。内容は『スマホの操作がわからない』とか『掃除機の吸引が悪い』とか『たわわに実ったプチトマトを収穫しにおいで』といった たわいもないこと。恩を感じる相手だし、いつも20分程度で済ませられる用事のため、成瀬は下宿を出てからも ちょくちょく行き来していた。 ※1 松岡の元恋人。松岡に逢うため診療所を尋ねてきたことがある。【プレシャスデイズ ~ スイセンとつむじ風】に登場。
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