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エピローグ
※『虹の橋』という詩をベースにしています
https://ja.wikipedia.org/wiki/虹の橋_(詩)
―――――
アヤノは緑の草原に立っていた。
自分の足が元通りになって歩けることに驚いたが、なんとなくそういうものだと理解する。
林のほうへ進んでいくと、大きな屋敷があった。
老夫婦が住んでいて、ここで働かないかと提案される。ほかにも勤めるアンドロイドがいて、アヤノより先に壊れた仲間たちだった。
彼女は喜んで了承し、新しい主人のために精力的に家事をこなした。
老夫婦はいつも笑顔で見守り、ささいなことで褒めてくれる。アヤノは嬉しくてたまらない。
屋敷の庭にはいつも花が咲き乱れている。仕事の合間に眺めるだけでも、心が和む。主人が許してくれたので、摘んで自室に飾った。
仕事のあいだはメイド服だが、自分の部屋に戻れば、ここへ来たときの服に着替える。小花柄のシャツと、ふんわりした白いスカート。
この世界ではすべてが彼女にやさしい。だが、着替えて髪を下ろしたときだけ、切なくなった。
* * *
あっという間にときが過ぎた。彼女は変わらず仲間たちと老夫婦に仕える。
ある日、シーツを干し終えたアヤノは、草原のほうから歩いてくる人物を認めた。彼女より背が高く、穏やかな顔立ちの男のひと。
アヤノは息を呑み、それからまっすぐ駆けだした。そのひとが招くように腕を広げたので、彼女は飛び込んだ。
この状況が信じられなくて、確かめるように相手を見上げる。彼はかつての年齢に若返り、あのころと同じあたたかな笑みを注ぐ。
アヤノはこらえきれず、しがみついてわぁわぁ泣き出した。
会いたかった。
会いたかった。
会いたかった……!
子供のように泣きつづける彼女を、彼はしっかり抱きしめ、何度も何度も頭を撫でた。
彼女を包み込むぬくもり、なだめる気遣いの声。駄々っ子のようになったアヤノに、彼がときおり笑いを漏らす。
理想的な世界で、たったひとつ足りなかったもの。それがこのひと。
ようやく落ち着いたアヤノが仰ぐと、彼はにっこり目を細めた。
『ずいぶん待たせたね』
アヤノはぶんぶんとかぶりを振る。
こうして会いにきてくれた。いま私は、あなたの腕の中にいる。どれくらい待ったかなんて、ささいなことだ。
ふたたび抱き合って、再会に浸った。
二人は手をつないで、互いを見つめてうなずいた。
アヤノが屋敷へ目をやると、老夫婦と仲間たちが祝福の表情で手を振ってくれる。彼女はそちらに向かって、元気に手を振り返した。
二人はその場を離れ、草原を歩いていく。やがて行く手に虹の橋が現れる。
アヤノは隣の彼と目配せをしてから、ゆっくりその橋を渡った。
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