握られた手

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握られた手

 弥七(やしち)狐多郎(こたろう)は村の東の地、水が引いた場所に落下し、村の子どもたち五人と狐生和(こうわ)に発見される。 『狐生和(こうわ)じいちゃん、向こうに人が倒れてるよ。――それに、あれは何』  十歳くらいの男の子が横たわる二人を指差す。  その先には、黒く美しい毛並みの狐が寄り添っており、狐生和(こうわ)がその狐に声をかけようとするとスウッと姿を消した。  今まで目にしたことのない黒狐であった。  子供たちは、消えた〳〵と驚いた様子。  近くまで行き、水が引いたばかりの大地に倒れた二人を確認する。狐生和(こうわ)は最悪の事態を覚悟していたが――なんとか息があるようで、安堵(あんど)した。  彼らの手は固く握られ、首飾りが離すまいと巻き付いており、その近くには竹筒(たけづつ)がカタ〳〵と揺れ動き、割れた表面の隙間から水が無限に溢れ続けていたという。   『――ヘゝ、狐多郎(こたろう)、本当にこの村を――俺たちの村を助けてくれたんだな』  狐生和(こうわ)がニッと笑った。 『もしかしてこの人たち、死んじゃったの。一人には耳と尻尾があるよ』 『マァ、狐だからな。大丈夫だ、生きてるさ』 『それじゃぁ、狐生和(こうわ)じいちゃんと同じってことかァ、凄いなァ――オイラも、杜明(もりあき)みたいな狐になれたらなァ』  その子は珍しそうに、狐多郎(こたろう)の耳をツン〳〵と興味津々(きょうみしんしん)に触れていた。  弥七(やしち)狐多郎(こたろう)は暫く狐生和(こうわ)の隠れ家で休み、やがて意識を取り戻した。  そして、狐生和(こうわ)はやっと狐多郎(こたろう)と最善な形で念願の再会を果たし、これまでの経緯を話したのだった。    弥七(やしち)が『日に当てゝみてはどうか』ということで、狐杜那(ことな)から(たく)された竹筒(たけづつ)狐生和(こうわ)の庭先に日干(ひぼ)しにしておいた。  カタ〳〵と竹筒(たけづつ)が暴れることもなくなったところで、狐多郎(こたろう)は封を解き、逆さまにして振ってみる。すると、雨水(あまみず)はほとんど乾燥したようで、二つの黒い毛玉のようなものが居間(いま)の上にふわんと落ちた。 『ウワッ、綿(めん)のようですよ。生きてるかなァ』  狐多郎(こたろう)がビク〳〵しながらその毛玉のようなものに触れてみる。  すると、握り(こぶし)くらいに膨らみ、モク〳〵と動き始めて直ぐに狼の面影(おもかげ)を形成し始めた。  七色の光を浴びたからだろうか、体は巨大化せず、拳の大きさのまゝ。まるで見世屋(みせや)にある玩具(おもちゃ)のように見えて妙に愛着が湧いてしまいそうだ。 『――なんだ、この二匹の犬は』  眉間(みけん)にシワを寄せ、狐生和(こうわ)が覗き込む。 『狼ですよ。この子たちなんです。村の雷雨の原因。たゞ、恐らく、彼らの意志ではなく――』 『なるほどねェ、例の術師の仕業(しわざ)かもってワケか』 『狐多郎(こたろう)、大丈夫なのだろうな。足枷(あしかせ)を外すのだろう』  弥七(やしち)が少し(おび)えた様子で言う。それに対し、狐多郎(こたろう)も同じ様子で頷いた。 『は、ハイ。足枷(あしかせ)を取らねば、また村が雷雨に見舞われますからね……。小さくなってしまったので、暴れても差し支えはないのですが、逆にそれが難儀(なんぎ)と言いますか』 『……コイツらが原因だってのか。流石にあんな雷雨は勘弁(かんべん)して欲しいねェ。ホラ〳〵、狐多郎(こたろう)、早く足枷(あしかせ)を外してくれよ』  横から狐生和(こうわ)が微笑しながら急かそうとする。 『簡単に言わないで下さいッ。小さ過ぎて……ウーン、何かいゝ方法は――』  と、脳裏(のうり)蒼炎荷馬車(そうえんにばしゃ)と師匠の庭先、鉄砲風呂(てっぽうぶろ)の記憶が浮かんできた。 『アッ、――狐生和(こうわ)風呂桶(ふろおけ)はありますか。貸してください。あと、お湯をたっぷり沸かして』
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