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新しい仲間
暫くすると、風呂桶に湯をたっぷり入れ、厄除けの薬草と鉱石、対狐の術を解くための術を描いた絵札、風の依代を浸した。
『これで、ヨシ』
『――狐多郎、この狼たちを洗濯する気なのか』
弥七が冷や汗をかきながら心配そうに見つめる。
『単純に言うとそうですが、違いますよォ。ホラ、こうやってゆっくり浸して――』
一体の狼を様々な術の効力で溢れた風呂桶の湯に浸しはじめる。
意外にも、その狼は暴れることなく、まるで、本当に子犬を入浴させているかのような感覚。
その場に居た三人は和み始めていた。
弥七だけは、狐が狼を洗っている――と、まじ〳〵と狐多郎の手元を見つめる。
狐多郎は黒いモコ〳〵の狼に、丁寧に湯を掛け、優しく暫く揉みはじめた。
『綺麗になーれ、綺麗になーれ。厶ッ、足枷が外れてきそうです。というかこれは――砕けている』
湯に浸されていた狼の足枷は、土の塊が水を含み砕け落ちるように、ほろ〳〵になると風呂桶の底に沈み、砂のようになった。
黒い毛玉のような体は、みる〳〵うちに、灰色から真っ白な狼の姿になる。きっとこれが本来の姿なのだろう。
その様子を見ていたもう一体の黒い毛玉は、桶の外から羨ましそうに尻尾を振り覗き込んでいた。
狼の腹を優しく撫でると、気持ち良いのか黙ったまゝ湯に浮かび満足そうな様子だ。まるで、いつぞやの自分を見ているようだ。と、狐多郎は顔がほころんだ。
『これで、君は大丈夫。次は君だから、お湯をまた変えようか。待っていてね』
狐多郎がそう伝えると、ウワウッと狼が嬉しそうに鳴いた。
真っ白になった狼は綿の布でワシャ〳〵と弥七の手により乾かされていった。
それから純白のような白さになった雷雲海狼は、狐生和の庭先から、日中のうちに天空へと放たれた。
三人は空を楽しそうに駆ける彼らを見送る。
『もうお別れなんて。君たち、元気でねーーッ』
狐多郎が悲しさを紛らわせるように大声で彼らに向かい叫んだ。
『足枷が取れて一段落だな』
風呂桶の湯を捨て、足枷が崩れ溶けた砂を念のため慎重に水切りをし、木箱の中に入れる弥七。
『ハイ。しかし、どうしてあのような事になったのでしょうねェ。一体誰が雷雲海狼を――』
『もう何者にも利用されないといゝが。術師に関して長が言伝が不可能になった以上、理由は分からぬまゝだ』
狐生和が言った。彼自身も呪詛を浴びた身であるが故、言葉の重みを改めて感じる狐多郎であった。
雷雲海狼は空を駆け、晴天の空に雨を散りばめると美しい七色の虹が現れた。
そして遥か彼方に向かい、二つの白雲へと変化したのだった。
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