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夜も約束通り、瑞希が全部用意をした。
小四から中二まで家事を一人でこなしてきた彼女にとっては、こんなことはお手のものである。あっという間に買ってきた挽肉とワンタンの皮で中華風ワンタンスープを作り、おかゆを炊いて、そこに卵を入れて出してきた。
「ほんとうに瑞希さん、手際がいいですね」
感心したように紺野が言うので、瑞希は思わず笑ってしまった。
「それを言うならあんただって。男でそこまでできるヤツ、なかなかいないよ、多分」
「今どき、女も男もないですよ、こんなこと」
そう言うと紺野は、丁寧に頭を下げた。
「いただきます、瑞希さん」
瑞希はちょっと赤くなってうなずいた。
紺野は多少食欲が出てきたようで、瑞希とほぼ同じ量を、少々時間はかかったが全部食べきることができた。
「ちょっと良くなってきたんじゃない?」
「瑞希さんのおかげです。ありがとうございます」
そう言ってまた頭を下げるので、瑞希は照れくさそうに笑った。
「いいって、マジでやめてよ。ホントあんたってバカ丁寧だね」
瑞希は立ちあがると、台所の戸棚から体温計を持ってきた。
「もしかして、熱が下がったんじゃない?」
「そうかもしれませんね。気分がいいので」
「測ってみてよ」
紺野に体温計を渡すと、瑞希はその隣に座った。紺野は素直に体温計を脇下にはさみ込み、じっとしている。
瑞希はすぐそばにある整った横顔に目を向けた。涼しげな目元にかかる、さらさらの茶色い髪。筋の通った鼻に、際だつ長いまつ毛。そんな紺野の横顔を眺めているうちに、瑞希は何だかドキドキしてきた。
と、体温計の電子音が鳴った。紺野は体温計を取り出して、表示に目を向ける。瑞希も表示を見ようと身を乗り出した。
「37.2」
その時、瑞希と紺野は寄り添うような格好で体温計をのぞき込んでいた。当然、二人の顔は非常に近いところにあった。表示を見た紺野が、瑞希に顔を向けて嬉しそうに何か言おうとした。瑞希はその瞬間を見逃さなかった。
瑞希の口が、開きかけた紺野の口をふさいだ。
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