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「……!」
紺野の目が、大きく見開かれた。その手から体温計が滑り落ち、床に乾いた音をたてて転がる。
瑞希は構わず舌を入れる。瑞希はこの年だが、すでにその道のプロだ。絡みつくように濃厚なキスをしながら、その手を紺野の背中に回す。下着を着けていない体を、紺野の熱っぽい体にぴったりと密着させる。
銀色の糸を引きながら唇を離すと、瑞希は潤んだ目でじっと紺野を見つめた。紺野は、ぼうぜんと目を見開いて動けずにいる。
「あたし、あんたのこと、気に入ったんだ」
目元にかかる紺野のさらさらした前髪を指先でなでながら、その目をじっと見つめる。
「泊めてくれたお礼に、あたしを抱かせてあげる」
ささやくようにそう言って、ジャージの上着を脱いだ。男物のTシャツの下は、何も着けていないことがはっきりと分かる。瑞希はその年齢にしては豊かな胸を、もう一度ぴったりと紺野の体に密着させた。
これで、今まで落とせなかった男はいない。少しあどけなさが残るその顔と、成熟しきった体とのギャップに、大抵の男は理性を失う。瑞希は勝利を確信しながら、紺野の背に添わせた手を、着ているスウェットの下に忍び込ませようとした。
その時だった。
突然、紺野が瑞希の肩をつかみ、その体を突き離したのだ。
「……⁉」
瑞希にとっては、予想もしていなかった展開だった。何が起きたのかすぐには理解できず、目を丸くして固まっている瑞希に、紺野は脱ぎ捨てたジャージを無言で着せかける。
戸惑いながら、紺野の表情をうかがい見た瑞希は、はっとした。
顔をそむけるようにして斜め下を見ているその顔が、一瞬、泣いているかと思うほど悲しげに見えたのだ。瑞希はその顔を見た途端、なぜだかいたたまれないような感覚に襲われて、胸が詰まった。
紺野は斜め下を見つめたまま、ぽつりと口を開いた。
「……もっと、自分を大切にしてください」
そう言うと、紺野は瑞希の方を見ずに立ちあがった。茶碗や箸が出しっぱなしのちゃぶ台を、黙って片付け始める。
瑞希は訳が分からなかった。ただ、自分が何かとんでもないことをしてしまったということだけは、妙にはっきりと理解できた。言いようのない不安を感じながら、瑞希はどうすることもできずに、ただその場に立ちつくしていた。
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