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「いただきます」
途中から瑞希も手伝ったので、朝食の支度はあっという間に終わった。二人はちゃぶ台に向かい合わせに座って、手を合わせてあいさつをしてから食べ始めた。
「紺野くん、今日は仕事?」
「ええ。そのつもりです」
「そっか……。何時に出る?」
「今日の出勤は確か八時半なので、八時頃に出れば間に合いますね。職場が近いんで」
瑞希はシャケをつついていた手を止めて、つぶやくように言った。
「じゃ、あたしも出てかなくちゃだね」
紺野も箸を止めて瑞希を見やる。瑞希は目線を落として小さくため息をついたが、振り切るように顔を上げると、やけに明るく笑ってみせた。
「ありがとね、紺野くん。あんたのおかげで助かったよ」
紺野はそんな瑞希の顔を探るように見つめていたが、ややあって、遠慮がちに口を開いた。
「……大丈夫ですか?」
「え? 何が?」
きょとんとして首をかしげた瑞希を、紺野は心配そうに見つめている。
「本当に、出て行っても……」
「? 本当にって?」
紺野はなんと言おうか考え倦ねている様子だったが、ややあって、言いにくそうに口を開いた。
「……もう、変なまね、しないですよね」
瑞希は目をまん丸くすると、シャケが入ったままの口を開けて紺野の顔を見つめた。
「気づいてたの?」
紺野はおずおずとうなずいた。
「あんなところ、釣りもしない人が、普通は入り込みませんから」
「マジで?」
瑞希は箸を置くと、目線を斜め下にそらしている紺野をまじまじと見やった。
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