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「でも、あんた、今までそんなこと、何も聞かなかったじゃん」
「え、それは……」
紺野はちょっと口ごもってから、遠慮がちにこう言った。
「誰でも言いたくないことの一つや二つ、ありますから」
なんだか似つかわしくない言葉を聞いた気がして、瑞希はまじまじと紺野の顔を見た。が、すぐに目線をそらすと、肩をすくめて笑った。
「別に、言ってもいいけどさ。……聞きたい?」
「瑞希さんが話しても大丈夫なら、聞きます。でも言いたくないことは、無理に話さなくていいですよ」
紺野はそう言うと、穏やかな表情でほほ笑んだ。
「なんであろうが、瑞希さんは瑞希さんですから」
瑞希は、その笑顔になんだかドキッとした。頬が熱くほてってくるのが分かって、慌てて目線をそらすと、あえてつっけんどんに吐き捨てる。
「……あんたさ、なんでそんなに優しい訳?」
「え?」
「水に落ちてまで助けてくれて、家にも泊めてくれて、飯も食わせてくれて。そのせいで風邪ひいて熱まで出したのに……こんな得体の知れない、怪しい女なのにさ」
その言葉に、紺野は困ったように笑った。
「得体が知れないだなんて。瑞希さん、いい人ですよ」
「は? いい人って、なんで……」
目を三角にして詰問してくる瑞希に、紺野は優しい笑みを返す。
「ご飯を代わりに作ってくれたり、僕の体を心配して台所で寝てくれたり。僕が仕事していれば何も言わなくても手伝ってくれるし、今朝は起きたらすぐに僕の熱の心配をしてくれたし。優しい人ですよ、瑞希さんは」
そう言うと、紺野は少しだけ目線を落とした。
「僕があなたをうちに連れてきたのは、多分、似ていたからです」
「似てた? 誰に……」
紺野は心なしか自嘲的な笑みを浮かべながら、ぽつりとその問いに答える。
「昔の、自分に」
瑞希は息をのむと、瞬ぎもせず紺野を見つめた。
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