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紺野は瑞希の視線を避けるようにうつむくと、静かに語り始めた。
「昔……生きているのがつらくて仕方がない時期があって。毎日、死ぬことばかり考えていました。あの時のあなたの様子が、その頃の自分にそっくりだったんです。だから、何だか放っておけなくて。つい、うちに連れてきちゃいました」
紺野はそう言うと顔を上げ、恥ずかしそうに笑った。
「でも、よく考えたらとんでもないことでしたね。若い娘さんを、一人暮らしの男の家に連れ込むなんて。僕はともかく、あなたに悪いウワサでもたったら大変だ」
「別に、そんなのは大丈夫だけどさ……」
十六歳らしからぬオヤジくさいその発言を聞きながすと、瑞希は胡乱な目つきで紺野を見やった。
「今の話、信じらんない。あんた、あたしに同情してんのか手なずけようと思ってんのかは知らないけど、ウソはやめてよ」
驚いたような表情を浮かべている紺野を横目で軽くにらみながら、瑞希は肩をすくめた。
「まあ確かにあんたもいろいろ複雑な事情はありそうだけどさ、こんなにちゃんと自立して、まともな仕事して、落ち着いて暮らしてるヤツがだよ、昔、自殺願望がありましたーとか、普通信じらんないって。あり得なさすぎ」
瑞希は暗い表情で、マニキュアのはげかかった指先を見つめた。
「もし仮にそうだったとしても、あたしほど滅茶苦茶な人生じゃないよ。あたしは、もう変われないもん。このまんま、落ちるとこまで落ちるだけ。先は見えてる」
紺野はしばらくの間、そんな瑞希を何とも言えない表情で見つめていたが、何を思ったのか突然、着ていたスエットの袖をまくり上げ始めた。
「……見ます?」
瑞希は何気なくその腕に目をやり……息をのんだ。
紺野の腕は、傷のないところを捜す方が困難なくらいだった。手首から二の腕のかなり上の方まで、凄まじい数の傷跡がびっしりとついている。しかも、どれも相当に深いもののようだ。
「……リスカ?」
紺野はうなずいて袖を下ろすと、恥ずかしそうに笑った。
「昔は隠してたんですけど、最近、限界を感じて。聞かれたり、見られたりしたら自分から話すようにしてるんです。自分が弱かったんだから隠してもしょうがないし、……何か、その方がいいみたいで」
瑞希は何を言ったらいいのか分からなかった。波のない湖面のように穏やかな紺野の表情が、ただただ不思議でならなかった。
「人は、変われます」
紺野はそんな瑞希の視線を受け止めながら、静かに言葉を続けた。
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