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「あー、おなか痛い。マジでヤバすぎるって……」
ひとしきり笑って涙を拭うと、瑞希は紺野に向き直った。
「ありがとね、紺野くん」
紺野はちいさく頭を振ったが、何を思いついたのか目を見開いた。
「そうだ。瑞希さん、市役所に相談してみたらどうですか?」
「市役所?」
「ええ。瑞希さんの詳しい事情は分かりませんが、住む場所やお金がなくてお困りなんでしょう? 事情を話したら、何か公的に支援してもらえる制度があるかもしれない」
瑞希は思いもよらないことだったらしく驚いたように紺野を見たが、すぐに不安そうに目線を落とした。
「でも、あたしここの住人じゃないし、事情を話すといっても……」
「別に住民票がなくたって大丈夫ですよ。相談は受けてくれるはずです。そういう相談機関には守秘義務があるし、むやみに秘密を漏らすようなこともありません」
紺野は立ちあがって新聞が積んである所を何やらがさがさやって捜していたが、やがて市の広報らしき紙を持って戻ってきた。
「九時になったらこの電話に問い合わせて、相談してみたらいいですよ」
広報誌の上の方に、問い合わせの番号が載っていた。
「瑞希さん、携帯は?」
瑞希が小さく首を振ると、紺野は少しの間考えてから、ポケットに入っていた携帯を取り出して、ぽんと瑞希に渡した。
「じゃあ、この携帯使ってください」
瑞希は思わず受け取ってしまってから、目を丸くして慌てて首を振った。
「ダメだって、人の携帯なんか。大事な連絡とかが入ったら、どうすんの?」
「でも、うちには、これしか電話がないので……。」
瑞希は苦笑すると、紺野の手に携帯を返した。
「いいよ。大丈夫。ここから駅、近いんだよね?」
「え? ええ。一応」
「なら、そこに公衆電話くらいあるよね。あたし、そこからかけるから」
そう言って笑う瑞希の顔を紺野は申し訳なさそうに見ていたが、何を思ったのか戸棚に走ると、財布をつかんで戻ってきた。
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