12月22日

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 早足で駅へと急ぎながら、瑞希は隣を歩く紺野をちらっと見上げた。 ――あとちょっとで、お別れか。  瑞希は、何だか胸を締め付けられるような気がして、ちょっと視界がぼやけた。一緒にいたのはわずか二日間ばかりだったが、瑞希にとってははるかに長い時間だったように感じられた。  間もなく、駅が見えてきた。 「駅の向こう側まで、一緒に行くよ」  ぽつりと瑞希が言う。紺野はうなずくと、複雑な表情で瑞希を見下ろした。  駅を越えて反対側にはバスやタクシーの停留所があり、田舎の駅なりににぎやかな感じだった。  紺野は駅の階段を下りきると、足を止めて瑞希に向き直った。 「……じゃあ、行きますね」  瑞希は黙ってうなずくと、下を向いた。紺野の顔をまともに見ることができなかった。何か言おうとしたが、唇が震えて言葉にならなかった。  紺野はそんな瑞希を、優しい目で見つめた。 「僕の携帯の番号、ポケットに入れておきました」  瑞希はよほど驚いたのだろう。目をまん丸くして顔を上げた。 「何かお困りの時は、かけてください。お役に立てるかどうか分かりませんけど」  そう言って紺野は頭を下げ、歩き始めた。瑞希が慌ててコートのポケットを探ると、半分に折りたたんだメモと、一万円札が二枚入っている。  歩き去る紺野の後ろ姿が小さくなっていく。瑞希は喉元に熱いこわばりのようなものを感じて、唇が震えた。耐えきれなくなったようにあふれた涙が、頬を幾筋も流れ落ちる。  みっともないとか、人が見ているとか、そんなことはもう全く関係なく、気がつくと瑞希は両手を口に当て、大声で叫んでいた。 「紺野くん! ありがとう!」  百メートルほど先を小走りに進んでいた紺野は、その声に足を止めた。振り返って、彼も大声でこう返す。 「寒いから、温かいものでも飲んでいてください! かぜひきますよ!」  瑞希はうなずいて、思い切り頭を下げた。紺野は笑ったようだった。大きく手を振ると(きびす)を返し、走り出した。あっという間に、彼の姿は上り坂の向こうに消えた。  瑞希はうつむいたまま、動かなかった。彼女の足元には、こぼれ落ちた涙があとからあとから滴り落ち、アスファルトに丸い水玉模様を幾つもつくっている。  道路の真ん中に立ち尽くして声もなく泣き続ける瑞希を、通勤客たちがいぶかしげに見やりながら行き過ぎていった。
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