12月22日

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 静寂があたり一帯を包み、風がさわさわと湖畔の芦を揺らして吹き抜けていく。 「おまえ……」  男の口から、驚きと戸惑いを含んだつぶやきがもれた。  その声に、呼吸すら止めて動けずにいた瑞希は、目を開くと、恐る恐るその目線を二人の方に向けた。  紺野は先ほどと全く変わりなく、瑞希の目の前に立っていた。見たところ、刺されたような様子はない。どうやら無事らしいとわかってほっとしたのもつかの間、瑞希はその手元に目をやって息をのんだ。  紺野は、男の突きだしたナイフの刃先を、右手で握りしめていたのだ。  男はナイフを動かそうと必死で力を込めているようだ。だが、紺野の手に握られた刃先はまるでそこだけ時間が止まってしまったかのように、微動だにしない。  紺野は男を静かに見据えながら、つぶやくように言う。 「観念してください」  男は、汗だくになってつばを飲み込んだ。その手が、小刻みに震え出す。 「あなたのしていることは、瑞希さんにとっても、あなた自身にとっても、間違っている」 「黙れ!」  窮鼠(きゅうそ)猫をかむとでも言おうか、追い詰められた男は両手でナイフをつかむと、突然、信じられない力を出した。紺野の手に握られていたナイフが初めて動き、じりじりと男の方に引き戻され始める。男は笑ったのだろうか、口の端を奇妙にゆがめた。 「このまま、つかまってたまるかよ!」  紺野は、微かにその目を細めた。  次の瞬間。  紺野の手に握られていたナイフの刃先が、まるでガラス細工のように、涼しい音をたてて砕け散った。  男は息をのんでナイフを見つめた。瑞希も、何が起きたのか分からなかった。  男の足元に、粉々に砕けたナイフの残骸が、日の光をキラキラ反射しながら散らばって落ちる。  紺野は手を下ろした。ナイフを握っていたはずのその手は、傷ひとつついていない。  静かな湖畔に、パトカーのサイレンが遠く響いてきた。その音は次第に大きくなり、やがてくねくねした細い道を、数台のパトカーが蛇行しながらこちらに向かってくるのが見えた。  真っ青な顔で凍り付いていた男は、それを見たとたん、急に力が抜けたようにへたり込んだ。到着したパトカーから降りてきた二人の警官が、すぐに男の側に駆けより、その腕をねじり上げる。男はもはや抵抗する様子もなく、警察官に両脇を抱えられるようにして立ち上がると、項垂れたまま、覚束ない足取りで連行されていった。
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