12月22日

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 ぼうぜんと座り込んでその光景を見ていた瑞希は、側に来た紺野に気づいて、血だらけで腫れ上がった顔を彼の方に向けた。  紺野は何とも言えない表情でそんな瑞希を見つめた。 「本当にすみませんでした。遅くなってしまって……」  沈痛な面持ちでそう言うと、紺野は瑞希の傍らにかがみ込んだ。赤く膨れあがった頬に手を添え、そっとなでる。優しく、ゆっくりと、何度も。  紺野の手が頬に触れるたびに、なぜだか痛みが和らいでいくのを感じながら、瑞希は小さく(かぶり)を振った。 「遅いなんて……。紺野くんのおかげで、助かったよ」 「でも結局、警察沙汰になってしまいましたね」 「仕方ないよ。そういうことをやってたんだもの。あたしは、全部話すつもり。そうしてリセットしなきゃ、何も始まらないし」  瑞希はそう言うと顔を上げ、まっすぐに紺野の目を見つめた。 「でもさ……紺野くん、どうしてあたしがここで、こういう状態になってるって分かったの?」  紺野は瑞希の頬をなでながら、無言で小さくほほ笑んだ。 「今、仕事に行ってたはずじゃん。それが、突然こんなところに現れて……」  言いかけてから、瑞希ははっとしたように頬をなでる紺野の手を取った。そうして、彼の手のひらをまじまじと見つめる。 「傷、……ついてないね。ひとつも」  ホッととしたようにそう言ってから、すぐに不思議そうに眉を寄せて、紺野の顔をじっと見つめる。  紺野はそんな瑞希から、少しだけ目をそらしていた。 「……あんまり、深く考えないでください」  そうこうしている間に瑞希の側にも、後から来たパトカーから降りてきた警官が数人、駆けよってくるのが見えた。  紺野は立ちあがると、瑞希に向かって頭を下げた。 「僕は、行きますね。何も言わずに仕事を抜けてきたので。もう行かないとまずいんです」 「紺野くん……」  瑞希は何か言いかけたが、口をつぐんだ。いつか紺野が言っていたあの言葉が、ふっと頭をよぎったのだ。 『誰でも言いたくないことの一つや二つ、ありますから』  紺野はそんな瑞希にほほ笑みかけると、(きびす)を返した。駆けつけた警官に状況を説明し、自分の名前や連絡先を教えると、本当に風のように駆けて行ってしまった。  その時初めて瑞希は、自分の頬の痛みがウソのように引いていることに気がついた。  風にざわざわ揺れる芦の間に立ち、胸の鼓動に体を揺さぶられながら、瑞希は紺野の去った道の向こうをいつまでも見つめていた。
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