12月25日

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12月25日

 12月25日(木)  クリスマスソングのあふれる街を、瑞希は歩いていた。  瑞希は、全てを話した。中二で家を出て、水商売をしながら今まで生きてきたこと。その中であの男に出会い、同棲したこと。あの男にシャブを勧められたが、断り続けたことで追われ、殺されかけたこと……包み隠さず、全てを。  あの男は所持していたシャブのおかげで、覚醒剤所持で現行犯逮捕された。しばらくは、娑婆に出てこられまい。  瑞希はまだ未成年ということで、警察が瑞希の話した実家の番号に連絡をとったが、つながらなかった。どうやら、瑞希が家を出たあと、引っ越したか、一家離散したか……とにかく、消息が分からなくなっていた。瑞希は、児童養護施設に身柄を預けられることになった。  そして今日、瑞希はその施設に向かって旅立つのだ。  駅に着いた瑞希は、時計を見上げた。時刻は、午前十時ちょうど。電車は、十時三十六分発予定だ。あと三十六分。小さくため息をつくと、券売機の向かい側にあるベンチに腰掛けた。  瑞希は待っていた。紺野が来てくれるのを。  昨夜彼女は、彼の携帯に電話をかけた。あいにく、彼は出なかった。メアドやラインは知らなかったから、瑞希は留守電に今日の電車の時刻を告げた。ただ、あまり長いメッセージは残せなかったので、詳しいことは何も言っていない。瑞希もあまり詳しく言って、彼が義務感に駆られるのが嫌だった。だからあえて短く、街を出ることと、電車の時刻だけを告げて切ったのだ。    ガラスの自由通路から、駅前の通りが見下ろせる。クリスマスらしく、サンタの衣装を着た人が、ティッシュを道行く人に配っている。駅には、小さくクリスマスソングが流れ、可愛らしいクリスマスツリーも飾られている。  瑞希はそんな風景を見るともなく眺めながら、ため息をついて下を向いた。自分には、クリスマスなんて無縁だ。これから、行ったこともない施設で、知らない人たちと暮らさなくてはならないのだから。  瑞希はまた時計を見た。十時二十分。あと十六分だ。瑞希は再びうつむいて、小さなため息をついた。  その時だった。  うつむいて座っていた瑞希の膝に、銀色のリボンがかけられた小さな箱が、ぽんと置かれたのだ。 ――え?  驚いて顔を上げた瑞希の目に映ったのは、あの、穏やかで優しい笑顔だった。 「遅くなってすみません、瑞希さん……」 「紺野くん……」  瑞希の視界が、一気にぼやけた。紺野はハアハアと息を切らしながら、両手を膝について息を整えている。 「朝、急に施設の方から呼び出されて、ひと仕事してきたんです。もっと早く来るつもりだったんですが……遅くなって、すみません」  瑞希は大きく頭を振ると、膝の上の箱に目を落とした。
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