12月21日

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12月21日

 12月21日(日) 「……はい。ええ。すみません。熱がちょっと高いので、今日は行かれないかと……申し訳ありません。いえ、大丈夫です。はい。明日は必ず……清水さんと三宅さんは、今日はいらっしゃらないので大丈夫です。はい。よろしくお願いします。はい、ありがとうございます。では、失礼します」 ――電話?  瑞希はぼんやりと目を開け、辺りを見回した。ここは、どこだったろう? 確か昨日、あたしは死のうと思って、湖に……。  はっと飛び起きて、瑞希は自分の体を見回した。何かされたような様子は、全くない。つけっぱなしの暖房のせいでちょっとのどは痛かったが、別に風邪という訳でもなさそうだ。 ――そういえば、あの男は?  瑞希は立ちあがると、勢いよく台所との境の戸を開けた。  途端にひんやりした空気が流れ込んできて、瑞希は思わずぶるっと体を震わせた。 「あ、目が覚めました?」  台所に立っていた男が振り返って言った。朝食の支度をしているらしい。彼は家の中だというのに、なぜかダウンジャケットを着込んでいる。ちょっと赤い顔をしていた。 「あんた、何? その格好……」  言いかけて、はっとした。台所に隅に薄い毛布が一枚、畳んでおいてあったのだ。 「あんたまさか、昨夜台所で寝たの?」 「え? ……ええ」  かき混ぜている納豆から目を離さずに、男はうなずいた。  瑞希はしばらくの間何を言うこともできなかった。  台所と居間の境は戸で仕切られていた。暖房もこちらまでは行き渡らないはずだ。しかも布団はあの薄い毛布一枚。瑞希はそこでようやく、男がダウンジャケットを着込んでいた訳が分かった。 「でも、あんたさっき、熱あるって言ってなかった?」  すると男は、ダシを取っていたらしい鍋に、刻んでおいた大根とゴボウ、人参を入れ、冷凍の里芋を入れてフタをすると、恥ずかしそうに笑った。 「大丈夫だと思ったんですけど、風邪をひいたみたいで。今日は仕事を休むことにしたんです。今、連絡を入れたらOKだったので」 「熱って、何度?」 「大したことありませんけど。職場が職場なんで、風邪を伝染しちゃまずいんです」 「職場?」
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