12月21日

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 男は頷くと、卵を鮮やかに片手で割ってダシと塩で軽く味をつけた。 「この近くにある、咲良いこいの家っていう特別養護老人ホームです。ご老人は抵抗力が弱いから、風邪とかを持ち込むとまずいんですよ」  瑞希はまたまた驚いたように目を丸くした。 「あんた、働いてたんだ。じゃ、何? 高卒で?」 「え? いえ。中退ですから、資格としては中卒ですね」 「中退?」  瑞希はますます目を丸くすると、その男をしげしげと見つめた。 「え、……っていうとあんた、今いくつなの?」  男は卵をかき混ぜながら恥ずかしそうに笑うと、年齢を計算しているのか、しばらくの間首を曲げて目線を上げていた。 「十六、ですね。多分」  瑞希は心底驚いたようにしばらく口をあんぐり開けて男を見ていたが、やがてため息をついた。 「やだ……年下じゃん」 「そうなんですか?」  男はほほ笑むと、かき混ぜていた卵をフライパンに流し込んだ。いい音がして、美味しそうな匂いが台所いっぱいに広がった。 「っつってもあたしも、先月十七になったばっかりなんだけど」 「そうですか。じゃあ、大して変わりませんね」  瑞希は男の手元に目をやった。鮮やかな手つきで、きれいな卵焼きをあっという間に作っていく。男はそれを無造作にまな板の上に移すと、小さな冷蔵庫からみそを取り出した。さっきから煮ていた小鍋にみそを溶かし、ひと煮立ちさせて火を止める。 「できましたよ」  男はにっこり笑うと、お椀や箸を並べだした。瑞希も慌てて布団を片付けると、みそ汁をよそろうとお椀を手に取る。 「あ、いいですよ、やるので。顔、洗ってきてください」 「……そう?じゃ、みそ汁だけやっとくから」  言いながら、瑞希はこの不思議な男に興味がわいてきた。この顔でやけに手際よく料理を作り、自立をして、高校中退で働いている。だが、そんなことより瑞希が驚いたのは、昨夜自分に全く手出ししなかったことだった。ご丁寧に境の戸をしっかりと立てきって、ダウンジャケットを着込んで、自分は寒さに震えながら一夜を明かしたのだ。だめ押しに、風邪までひいて。  今まで瑞希が出会ってきた男たちとは百八十度違うその男を、瑞希は上から下までまじまじと眺め回した。
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