12月21日

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 手早く整えられた朝食は、例によってやたらとおいしかった。  みそ汁をすすりながら、瑞希は上目遣いにちらっと男を見やる。  男は静かに箸を動かしていたが、瑞希の視線に気がついたのか、目線を上げた。 「……あたし、橋本瑞希(みずき)」  唐突に、瑞希はこう言った。自己紹介をしていなかったことを思い出したのだ。  男は穏やかにほほ笑むと、箸を置いて軽く頭を下げた。 「僕は、紺野といいます。紺野、秀明」 「紺野くんか」  瑞希はそう繰り返すと、嬉しそうに笑った。 「ため口でいいよね? 年近いし」 「構いませんよ」  紺野の返答に、瑞希は不服そうに眉根を寄せる。 「だから、ため口でいいって言ってんじゃん」  すると紺野は、困ったように笑った。 「すみません、僕はこのままでもいいですか? 癖なんです」 「癖? その、バカ丁寧な敬語が?」  紺野が恥ずかしそうにうなずいたので、瑞希は思わず吹き出した。 「ヤバ……あんた、マジで変わってんね」 「そうですか?」  紺野はほほ笑むと、箸を置いた。見ると、半分も食べていないようだ。 「何? あんた、もう食べないの?」 「ええ。ちょっと、食欲ないみたいで」 「マジで? ちょっとみせてくれる?」  瑞希は紺野のそばによると、返事を待たずに額に手を当てる。手のひらで感じるその熱さは想像以上で、瑞希は思わず息をのんだ。
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