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 週が明けた月曜日。  午前中に二時間ほどかけて広い屋敷の掃除を終えた奈緒は、夢中で韓流ドラマに見入っていた。この日は夫も健斗も外食のため、夕飯を作る必要がない。数話分を一気見するつもりだ。  韓流ドラマは唯一の楽しみで、あるとき、話題の『愛の不時着』をなにげなく観たところハマってしまい、恋愛ものを中心に過去の作品も次々に追いかけた。ここ最近は『冬のソナタ』に胸を痛めていた。  恋愛ものに惹かれたのは、自分では経験がなかったためだ。中高と女子校で過ごし、短大では恋をする間も無く、あっという間に学生生活を終えた。  就職した総合商社で言い寄ってきた男性はいたが、奈緒の家柄を知ると離れていった。奈緒の家も神宮寺家と肩を並べる名家で、庶民がおいそれと手を出せない敷居の高さがあった。上司も同僚も、奈緒の就職は嫁入りまでの腰掛けだと理解していたため、簡単な仕事しか与えられなかった。いわゆるお飾りだ。  二十五歳のときに俊之と見合い結婚をし、二十六で健斗を産んだため、男性経験は夫だけだ。恋愛を経験しないまま四十五歳になっていた。  韓流ドラマは、自分とは無縁の悲恋や、手に汗握る緊迫感に満ちていて、心が揺さぶられた。観終えるといつも、我がことのように、深いため息を漏らした。  奈緒がドラマの余韻にひたっていると、インターホンが鳴った。  モニターに映った来客に奈緒はすこし驚いたが、正門のロックを解除し、安藤真紗也を招き入れた。
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